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新海誠監督最新作『すずめの戸締り』感想【ネタバレあり】

映像鑑賞
11 /14 2022
新海誠監督最新作『すずめの戸締り』を封切初日に観る。
今や新海作品は大ヒット前提で上映されるので映画館内には様々なアイテムが用意されている。
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19時過ぎからの上映だったがほぼ満席。
特典の冊子も付いてきた。
(以下、ネタバレありの内容)
前宣伝からして廃墟を扱ったポストアポカリプス的雰囲気を醸していたので自分の好みの波長とシンクロ率は高い。
ただ前回の『天気の子』は扱う分野は同様にシンクロしていたが実際はストーリーに妙なバイアスが掛かり、没入には程遠かった内容だったので今回はあまり期待せずリミッターを掛けながら観る。
幸いにも『すずめの戸締り』は説教臭いパートもなく、『君の名は』で描かれたポストアポカリプス的SF要素を保ちつつ、よりリアル世界に近づけた内容で新海誠テイストを維持したことでかなり満足した出来だった。
『君の名は』のカタストロフはあくまで架空の話だったが、今回は東日本大震災を扱っており現実に起こったこととリンクさせているから、諸々厄介な輩が絡んできそうな危惧も心配されるが、これだけのヒットメーカーになるとそんな「危ない橋」企画もすんなり通るものだ。
プログラムのライナーノート解説によると、主人公の名前は日本神話のアメノウズメから来ているそうだ。
スサノオの悪行に恐れをなして天岩戸に隠れたアマテラスを神々の宴会の場で性器を露出させて踊り、外に連れ出すことに成功させた女神。
この作品では「常世」に通じる扉を閉じるための役を背負っている女子高校生として描かれている。
神話、伝承と廃墟をシンクロさせて、この世界の禍を解くという手法を上手く熟して、映像もハイレベルで飽きさせない。
実際、この不浄の世、神聖なる聖域を破壊し、神々の秩序を乱し、邪なる欲望を満たさんと鬼畜に堕ちた輩の悪行が目立つ昨今、明日にでも恐るべき神罰が下ってもおかしくはない。
封じ石の化身である白猫ダイジンは笑いながら言う。
「もっとたくさん人が死ぬよ」
そうだ。
このコロナ文革という狂信カルトイデオロギーが支配する狂った世に、もはや希望も救いもない。
委縮し、行動も制限された社会は著しい超少子高齢化を加速させ、生産人口は減り、あらゆるものが貧困化し、様々な選択肢の希望が失われ、人々は自らを追い込むように自壊の奈落に堕ちようとしている。
「貧すれば鈍す」
自由で創造的な行いは全否定され、監視され、投獄される。負のスパイラルが急速に加速する。
既得権者の安泰のために貧者が固定化され、貧者同士で潰し合う絶望世界がやってくる。
遅かれ早かれ核戦争は勃発し、中世の教会の如く一握りの支配階層が特権階級として君臨し、大多数の貧民が奴隷としてこき使われる未来は必至。
そんな世界は一旦、神々によって浄化されねばならぬのだ。
神罰の日は近い。
もしかすると、この映画で描かれている東北地方の大津波廃墟は史実の東日本大震災ではなく、これから未来に起こる更にステージの高いカタストロフをさしているのかも知れぬ。
すすめが扉の向こうの「常世」で出会った4歳の娘は自分の「過去」ではなく、「未来」の自分の娘の姿であり、この狂った世に下された新たなる神罰の世界を描いているのかもしれない。
『すずめの戸締り』は昨今の細田、庵野監督の描くフェミニズムイデオロギーに迎合する気持ちの悪いバイアスが比較的少ないので世界観に没入出来、安心して鑑賞することが出来る。

余談だが、この作品はポストアポカリプス的世界で廃墟を依り代とし、自分探しの旅を続けるたつき監督の『けものフレンズ』とシンクロ率が高い。
封じ師草太はかばんちゃん。アメノウズメたるすずめはサーバルちゃん。ダイジンはラッキー。ミミズはセルリアン。
旅のお供芹澤はアライさん。
物語の始まりも宮崎で『けものフレンズ』のジャパリパークに相当する「キュウシュウチホー」。
そして船で四国という「ゴコクチホー」へ渡る設定も同じ。
旅ルートもたつき監督のけもフレリベンジ作品『ケムリクサ』と酷似している。
廃墟の観覧車シーンは恰も『けものフレンズ』のエンディングタイトルを見ているかのようで、いつ、かばんちゃんが飛び出してくるのを今か今かと待ち構えてしまった。
残念ながら、たつき監督の世界観で構想された『けものフレンズ』は第一期で絶たれてしまい、未完で終わってしまった。
なぜたつき監督は『けものフレンズ』でこの「世界」を描き切れず、新海氏は最後まで描くことが出来たのか?
それはやはり新海監督が確固として築いたポテンシャルの高さがスポンサー、出資者、製作会社の理不尽な要求を一切許さないパワーを行使出来たからに他ならぬ。
超ヒットを飛ばせば監督は「帝王」として君臨出来る。
目先の利益しか考えられず、流行りと体裁しか追えない馬鹿な老害制作会社、出版社等のあらゆる愚行は己の実力を持って排除できるのだ。
新海誠監督は心の中で叫んでいるだろう。
「俺の純粋たる創造力が超ヒットを生み、お前たち社畜を儲けさせてやっているのだ。黙って俺に従え!クズ共は引っ込んでいろ!」とね。
だから己の創作イニシアティブの舵を他人に奪われることはないのだ。
これが出来るのは現在、アニメ界では新海誠氏以外に庵野氏位なものだろう。
なんと羨ましいことか。
売れれば「神」である。
一方、力なき者に希望は輝かない。売れなければ相手にすらされない「ゴミ」でしかないのだ。
残酷なる掟なり。

映画鑑賞後、プログラムとダイジンのマスコットを買い、己のポテンシャルの低さにがっくりと首を垂れ、とぼとぼと夜の路をを歩く。
空腹に耐えかね、駅前のマクドナルドで「ハッピーセット」を注文する還暦を過ぎた己の姿が痛々しい。
嗚呼、絶望。
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あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/