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「鬼籍入り」という慶事

日常
01 /29 2020
もう1月も終わる。
普段なら乾燥した晴天が続くのに、雨が多い2020年、東京の冬。
一方、北日本ではまったく雪が積もらないとか。
昨年の台風15号以来、大気の流れが大きく変動してしまったような予感。

年賀状悲喜交々。
まだ松の内だったか。携帯電話に見知らぬ人からのTEL。
間違い電話かと思いきや、高校時代の旧友の親族からであった。
今年正月に送った年賀状に記されたこちらの電話番号を頼りに連絡されてきた。
電話によるとその旧友は昨年の1月頃亡くなったという。
なにやら癌であっという間だったとか。
そういえば今年は彼からの年賀状が届いていなかったことを思い出す。

その旧友は自分の人生で大いに影響を受けた稀有な高校生時代のクラスメートだった。
当時は1970年代半ば。写真やカメラ、天文、バイク、車、オーディオ、パソコン、SF、漫画方面に造詣が深く、大いに影響された。
自分が最初に手にした一眼レフカメラ、ペンタックスMXもこの旧友に薦められて購入したもの。
手塚治虫の「火の鳥」シリーズを読破したのも、この旧友の蔵書であった。
また彼の高級オーディオで富田勲のシンセサイザー曲をじっくり鑑賞したりと高校生ながら妙にハイソな雰囲気が漂っていた。
他にも様々な分野で博識があり、趣味の分野では貴重な知人のひとりだった。
東京都西部の自然環境の恵まれた場所に住んでいたので、よく泊りがけで遊びに行ったものだ。
彼の所有する当事流行った50CCのバイク、ヤマハのミニトレで移動した。
原付二人乗りは違反だったのだが、当時はまだ今ほど厳しくもない時代。
仲間数人と近くの墓地まで天体望遠鏡を持ち込み、星野撮影に勤しんだ。
高校卒業後も暫く交流が続いたが、近年は年賀状のやりとりだけ。最後に会ったのは、もう20年も前だろうか?
同じ歳だから、還暦前に鬼籍に入ってしまったことになる。

吾妻ひでお先生も昨年亡くなったが、著名人である故に惜しまれつつも多くのファンに見送られたということでその「死」には何かまだ救いを感じる。
しかし、この旧友の死は茫漠とした虚しさに包まれるだけ。
自分の知る限り、彼は恐らく直近でも独身だったと推測する。結婚話は聞かないし、そんなタイプでもなかった。
どちらかというと理工系アウトドアWOTAKU第一世代。「うる星やつら」のラムちゃんにも傾倒していた。
だから恐らく、残された妻も子供も居まい。
そして己の遺伝子を残せぬまま、50代でこの世から去ったのだ。
彼の蔵書や貴重なオーディオ、天体望遠鏡コレクションもどうなってしまうのか解らない。
いずれにせよ、やがては誰からも忘れられていく運命だ。
他にこの旧友との共通の知人関係も疎く、もはや連絡する術もないし、敢えて探す意味も見出せない。
たとえ、生きていたとしても今後会う機会があったかどうかも解らぬ。
残念と思う一方で、どこか安堵感も漂う。
独身でこれ以上、生きたところで大して良い事が待っているとは思えぬ。
心身とも衰えていき、80、50老老介護問題とかもう地獄のような老後しかない独身男性にとって還暦前にこの世から退場出来たという事は、ある意味、幸せなのではないだろうか?
そうだ。これは彼にとっては慶事なのかも知れぬ。

人の死は認識出来るが、自分の死は客観視出来ない。
この世のすべては己の脳があってこそ認識される。
己の脳が機能停止したらこのセカイは無となる。
死はこの世界から自分が居なくなるのではなく、自分の周りから世界が消えるのだ。

手元には当時、この旧友自宅前で撮った天文写真が残っている。
彼所有の天体望遠鏡を使い、赤道儀で手動ガイドで撮影した北斗七星。
極寒の冬の夜、煌々と登る星座を追いかけた夜を思い出す。

冬の北斗七星
1977年2月19日0005JST開放5分・手動ガイド

北斗七星19770219_0005Jaa

そんな若き日々も遠く去り、やがて時代を共にした同世代の旧友、知人も遅かれ早かれこの世から居なくなる。
遺伝子を残せた既婚者はまだまだ現世に生きる価値は大きいが、独身絶望男性にこれ以上の生きる意義があるかは解らない。
いずれにせよ独身絶望男性にとって、「鬼籍入り」はいつしか慶事となった。
何も残せぬまま苦汁の老後しかなければ、還暦前後の死は喜びとなるのだ。

儚きぞ。人生。




あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/