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9月諸々

日常
09 /28 2018
もはや9月も終わろうとしている。
台風24号が沖縄の南辺りで停滞し、秋雨前線が関東地方に長くかかっている。
典型的な秋の長雨パターン。
東京は梅雨時よりも9~10月の秋雨のほうがダメージが大きい。
昨年も、この時期尽く週末雨に降られてイベントが潰れてしまった記憶がある。

少し前になるが、東京駅の美術館で開催されていた「いわさきちひろ」展を観た。
練馬区にある専用ギャラリーにも過去赴いたことがあるが、今回はスペースも広く大規模。
いわさきちひろといえば、自分の幼年期、すなわち1960年代のシンボリックな絵本画の典型であった。
学校の図書館や病院などの待合室には必ずといってよいほど彼女の本が転がっていた。
テレビまんがばかり観て、児童文学や絵本をまったく読まなかった自分ですら知っている作家。
今思うと、思想的にバイアスがかかっていてやや複雑な気分になるが、いろいろと経歴なんかを垣間見ると山の手のお嬢さんという感じで裕福な家庭に産まれたが故に自由な創作活動が許されたんだろうなあと羨ましくなる。
実家が裕福でないと、クリエーターが大成することはなかなか難しいのは今も昔も変わらない。
そういうことばかりが気になってしまい、作品自体の感想は二の次になってしまう。
しかし、シンプルな線で情感を表現するのは、1960年代特有だ。
『ねこじゃら市の11人』のオープニングと同じだ。
あの頃は若者が人口比の多くを占めていた。
だから、常に皆前のめりに生きていた。
が、若年層は多かったが、大学生の数は全体の2割程度。
高度成長期の企業にとっては大卒は貴重な人材だったから、学生運動等で多少暴れてもいくらでも就職口は見つかった。
火炎瓶を投げてゲバ棒振り回しても終身雇用が約束されていた時代。
今だったら、大学生など特別ではないから、下手な運動したらもやまともな所には就職できない。
いわさきちひろの絵を観ていると、そんなエネルギー溢れた1960~70年代の残滓が迫ってくる。
昔の左派系新聞に連載していた「働く女性」みたいなコラムに真空管を手作業で作る女工エピソードの挿絵が紹介されていて、古き良きアナログ時代は遥か古に遠ざかってしまったことを改めて感じる。
別に真似した訳ではないが、いわさきちひろ風に水彩を淡く溶かした絵を描いたことがある。
これは自分の学生時代に描いた落書き。
昔の水彩画1979aa
だがこんな画風で漫画は一度も描かなかったな。

もうひとつ、自分の学生時代の後輩が出展している展示会にも足を運んだ。
国立の閑静な住宅街の中にあるギャラリー。
現代芸術っぽい作品が多い。参加しているのはアマチュアの方が多いのだろうか?
しかし芸術にアマもプロもない。アートとはそういうものだ。
出展物の中に、蛇状に長いルービックキューブみたいなものがたくさん机に置かれていたコーナーが。
観覧者が自由に造形してよろしいと案内されていたので、ひとつ徐に手にとってくねらせる。
そしてタイトルも記す。
題して「58才児」。
IMG_20180916_171647aa.jpg
適当に赴くままに作ったので主張も何もない。
強いてあげればそんな無目的に時間を過ごしていたらまともな造形物に至らぬまま還暦近くまで子供のまま年取ってしまった事を訴えてみたと、適当に自分を納得させる。
暫くすると、50代くらいの女性グループがこのオブジェの前を通りかかり、笑い出した。
「58才児ですって。ぎゃはははは」
多少でも反応があるだけマシだという事か。

更に、知人のアマチュアバンドライブにも顔を出す。
1970~80年代のJPOPsである。
「おやじバンド」ブームというのがあって、定年近くの会社員が組んで若き時代のニューミュージックを演奏するグループが増えた。アマチュアといっても腕や歌唱力は馬鹿にならない。
あの頃は才能があっても、一般企業に就職する以外、選択肢はなかった。
プロになるのは極々限られた者だけ。
今のようにユーチューブなんかなかったからアマチュアの自己表現の場など限られていて、サラリーマンになったらひたすら滅私奉社の時代。
会社員やりながらバンドなど不謹慎といわれた。
みんな趣味を捨てた。思えば乏しい時代。
そんな世代が子育ても終わり、余裕が出てきて再びかつて爪弾いていたギターを取り出し、歌いだしたのだ。
一流企業に勤めている人が多く、定年後も年金で潤える世代だから皆、悠々自適。
「いわさきちひろ」と同じである。

還暦とは次世代を育み終わり、これから悠々自適に余生を楽しむ入り口なのだ。
しかし、そのためにはお金がいる。
お金のない絶望独身男性還暦は惨めだ。
表現活動を趣味ではなく、生業にしている者は生涯現役で死ぬまで仕事で描いていかねばならぬ。
描けなくなったらおしまいだ。
「58才児」に余生を楽しむ60代はやってこない、としかと心得ねば。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/