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商業単行本キンドル化健忘録&『晴れた日に絶望が見える』キンドル版発刊のお知らせ

創作活動
05 /28 2017
「電子書籍は本の墓場」と聞いたことがある。
実際のところ、それが本当がどうかは知らない。
いずれにしろ、「本」が紙の媒体から電子化に移行するのは避けられぬ時代の趨勢。
著作物を出版することを生業にしている限りは電子書籍が「墓場」か否かに拘わらず、その流れの中で生き残っていくことを模索していかねばならない。
10年以上前から、自分の商業単行本の電子書籍化は行っていた。
『快晴旅団』や『風の中央鉄道』はこちらでDL出来る。
http://www.ebookjapan.jp/ebj/author/198/
https://comic.k-manga.jp/search/author/2524
また同人誌もDLサイトなどで頒布出来るようになっている。
http://www.dlsite.com/home/circle/profile/=/maker_id/RG13792.html
これらは基本的に原稿データを業者さんに渡して、フォーマットなどはすべてお任せだった。
キンドルにも数年前、試験的に『多摩モノレール堰場幻影』をアップ。
この時は経験のある知人にお願いして作成して頂いた。

今回は幻冬舎コミックスで刊行された『晴れた日に絶望が見える』他数巻分をすべて一挙キンドル化しようという企画である。
単行本およそ3冊分。
総ページ500ページ近い。
これを全て自分でキンドル化するという試みだ。

●版下制作
さて、紙の媒体から電子書籍化するには様々な方法があるようだ。
一番、簡単なのは元の単行本を裁断して、単純にスキャンして電子書籍の版下にしてしまうというもの。
「自炊」とか言われるものに近いのだろうか?
ただ、これでは印刷したものをそのまま取り込むだけなので印刷による絵の劣化、ミスもそのまま出てしまう。
自分は極力、そのようなイージーな方法での電子書籍化は避けてきた。
まず、自分の漫画は絵が細かすぎて、縮小印刷されると線が潰れたり、掠れたりして原画の細密感が著しく損なわれてしまう。
そもそも単行本化された自分の本で満足に値する印刷のクオリティーに達するものは少ない。
白黒2階調印刷では原画再生は難しいのだ。
だからそれをそのまま、電子書籍の版下に流用することは最初から考えていなかった。
既存の電子書籍も一部の同人誌を除いて元原稿から高解像度でグレースケールでスキャンし、修正したものを版下にしている。
今回のキンドル化も、全て元原稿をグレースケール(カラー原稿はRGB)でスキャンしたものを使う。
また、台詞もすべて改めてタイピングして吹き出しに配置するので、膨大な作業量となる。この工程は知人に手伝っていただいた。

さて、まずその取り込んだ原稿データであるが、「影男シリーズ」を描き始めたころは単純にスキャンしただけで、細かな修正、補正が済んでいなかった。
グレースケールの場合は、白黒2階調では反映されない細かなゴミや数パーセントのグレーも出てしまうので、フォトショップで1枚1枚200パーセント拡大でチェック修正していく。100パーセントでは見落とす場合もあるからだ。
なので、1枚の原稿を処理するのに15分以上かかる。
根気のいる作業だ。
IMGP2872b.jpg
基原稿チェックが終わると、今度は電子書籍のフォーマット、サイズに合わせる作業だ。
取り込んだだけの原稿サイズは微妙にバラバラで縦横紐も違う。
これも統一しなければならない。
ただ、作業を始めた当初、キンドルのフォーマット、縦横比率、解像度がいまひとつ解らなかった。
ネットで調べても、人によって制作時期によって様々違うので汎用テンプレートも存在しない。
そもそも電子書籍を見る末端のディスプレイサイズが統一されている訳でもないので決めること自体、無意味なのかも。
煮詰まってきたので、いっそのことA5サイズの紙媒体用の版下で作ることにした。
これなら、テンプレートはあるし、いずれ紙媒体で書籍にする時にこの版下を流用できる。
これは数年前、試験的にキンドル化した『多摩モノレール、堰場幻影』時と同じ方法。
大きさは縦21.6cm(4422ピクセル)、横15.4cm(3153ピクセル)。解像度540dpi。
これはあくまで印刷前提の版下である。
これを3巻分作る。
但し、紙媒体のコミックス1巻をそのまま電子書籍化するとかなりの容量になってしまい、扱いにくくなる。
だからといって1Pあたりの解像度を落としてしまうとクオリティーも墜ちてしまうので一冊120Pが限界か。
第一巻の『晴れた日に絶望がみえる』も120Pに減らした。
おそらく、そういう理由も鑑みて電子書籍版「影男煉獄シリーズ」は4巻ぐらいに分けようと計画している。
台割は若干変更しなければならない。

●電子書籍版下に変換
印刷前提の版下が完成したら、これを電子書籍用版下に変換する。
まず、キンドル書籍制作の定番である「キンドルコミッククリエーター」をダウンロードする。
基データの解像度は電子書籍末端の種類によって異なる。
比率が4:3の場合は1280×960、比率1:1.6の場合は1280×800で作る。
解像度縦最大値は1280ピクセルらしい。だが比率さえこれに収まれば解像度が高くても問題ない。
比率は精密にこだわると煮詰まってくるのでぴったり合わなくても良いことにする。
印刷用A5版下を縦1280ピクセルにあわせると横は913ピクセルになるが、多少の比率の違いはスルー。
で、このフォーマットに合わせて、先に作った印刷用のPSDファイルをJPGファイルに変換縮小。
電子書籍だから解像度は72dpiに落とし、縦は1920ピクセル×1369ピクセル(縦横比率はそのまま)に。
縦1280ピクセルまで落としたくなかったので、比率は同じでやや大きめの解像度で制作し基データを揃える。
それを「キンドルコミッククリエータ」に一括取り込み。
が、並べられたページ数が印刷用版下ノンブルと合わぬ。0ページとかも出来てしまう。だがキンドルにアップされるとまたページ表示が変わってしまう場合もあり、このあたりは拘るとまた煮詰まってしまうので、ページのズレは順番さえ合っていれば気にしないことにする。修正方法もあるらしいが今回は先に進める。
他の電子書籍を見ても印刷書籍用ノンブルと電子書籍のページ数がずれているのは結構ある。
「キンドルコミッククリエーター」でビルド&プレビューする。
プレビュー画面を見ると、上下に幾分隙間が発生する。
最初は気になったが、そもそも漫画原稿は書籍印刷前提にサイズが設定されている訳で、スマホ、キンドル末端の寸と合うはずがないのだ。縦を合わせれば横がはみ出すし、その逆も然り。
だから神経質になっても意味がない。ディスプレイの背景色が白であれば気になることもないはず。
ビルド&プレビューすると「mobi」ファイルが指定したフォルダーの中に出来る。これがキンドル用データ。
すでにキンドルのアカウントはあるので、新しい書籍として指示されたとおりに手続きする。

●キンドルにアップロード
さて、いよいよファイルをアップロードするのだが2回ほどエラーが出てしまった。
ブラウザを変えて何とか3回目でアップロード成功。時間も30分以上かかった。
データ量は120ページで66.1MB。
結構でかい。
以前は一冊50MBに制限されていたが、今は上限650MBまで大丈夫らしい。
さて、価格設定なのだが、キンドルはロイヤリティー35パーセントと70パーセントの2種類選べる。
70パーセントを選択すると著作者の取り分は大きいが、他の電子書籍では販売できない(紙媒体なら大丈夫)等の制限がある。また1MBあたり1円の配信量がかかる。
キンドル版『晴れた日に絶望が見える』の価格は550円前後に設定する。
もっともキンドルはドル計算なので切りの良い5ドルに。
ロイヤリティー70パーセントの場合、紙媒体の単行本価格より20パーセントほど安くしなければならないとあるが、すでに幻冬舎コミックス版は絶版になっているのでこの決まりに従う理由もないかもしれない。因みに幻冬舎コミック版は660円だった。
ロイヤリティー70パーセント、価格5ドルで設定し、数値を打ち込む。
でも何だかおかしい。
この設定だとロイヤリティーがゼロ?
配信料を引かれても490円位には収まるはずなのになぜ?
やはり、データ量が多すぎるのか?
いろいろ調べてみると、入力していたのが間違えてアメリカ合衆国のキンドル価格設定の場所と判明。
なんと、日本の場合は10MBを越すと配信料が掛からないとある。
なぜ、こんな重要な文言が目立たないところに示されているのか?
結局のところ、キンドルはアメリカ合衆国の会社なので日本はローカルに過ぎないのだ。
そんな「ローカル特典」はあくまでローカル分野で取り扱われているので、ユーザーが自分で探せと。
日本の漫画家や様々なクリエーターは、そんな米国主導のキンドルに電子書籍のプラットフォームを委ねなければならない現実。
つくづく、日本の凋落を感じざるを得ない。

それはさておき、作業を始めてから2週間、やっとなんとか影男煉獄シリーズ01『晴れた日に絶望が見える』のキンドル化作業を終えた。
ただ、容量はもう少し減らしたほうがよかったか。
ダウンロードにも時間が掛かるし、利便性を考えると66MBは重過ぎる気もする。
ただ、細かな線も再現したいので、ある程度の解像度は必要かもしれない。
このあたりは今後、カット&トライで修正も考えている。
キンドル版PRのために動画も制作。

もともと公式サイトで幻冬舎コミックス版発刊の2003年にJPG画像としてアップしていたものにライセンスフリー素材サイトからDLしたバッハの『G線上のアリア』をBGMとして再構成。
キンドル版『晴れた日に絶望が見える』発売は5月31日より。
今後、「影男煉獄シリーズ」 は順次、キンドルにて発刊予定。
よろしくお願いします。
キンドル晴れ絶望表紙版下a





あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/