晩秋の戯言

報道
11 /10 2016
気が付くと11月。
木枯らしが吹いて「寒さ」という感覚を体感しはじめた。
近年、「秋」がない。
9月過ぎてもだらだらと残暑が続き、秋はいつ来るのだと思っていたら突如として寒さに襲われる。
この極端な入れ替わりは、もしかすると気象がおかしくなったのではなくて単に己の代謝低下が原因かもしれない。
代謝が衰えると、すべての五感が鈍って環境変化に鈍感となり、暑さの次に遣ってくる「涼しさ」に対応しきれぬうちに寒さが来てしまうのだ。だから季節変化が極端に感じられてしまうだけなのかも知れぬ。
数多のものに鈍感となる。
歳をとるとはそういうものだ。

テレビやネットで北米大国大統領選挙の結果を知る。
メディアの予想を裏切ってかつての泡沫候補者が当選したという。
公職経験も軍歴もない、およそこの国の国是に相応しくない様な人物だそうな。

最近は「想定外」のことが多いという。
英国のEU離脱も予想外の出来事で、世はグローバイズムに終焉を告げ、時勢のベクトルが「内向き」に逆転しはじめたという。
今回の選挙もこの国が支配するエスタブリッシュメント(既得権層)に虐げられていた国民の鬱積を掬い上げた結果とか何とか。
本当かどうかは知らない。

この次期大統領は日本に対して安全保障負担は重荷だから手を切りたい、と選挙中は発言していたらしいそうな。
当選後、日本の宰相はそんな発言を知らなかったのごとく「日米同盟は普遍的価値で結ばれた揺ぎ無い同盟」とコメントしたと新聞に載っていた。
同盟に「普遍的価値観」なんてあるのかも知らない。
でもかつて第一次世界大戦時に結ばれていた「日英同盟」はどこぞへ消えてしまった記憶があるが、あれにはそういう「価値観」はなかったのか?。
いずれにしろ、かの国が日本列島を「不沈空母」として重宝していた冷戦時代はとうの昔に霧散していることだけは確か。

実際、この次期大統領が、本当に日米同盟を返上したいのかは、今のところ誰にも解らない。
ただこの状況を鑑みて己の権益を拡大しようと虎視眈々と狙う中国にとっては千載一遇のチャンスかもしれない。
北米大国の次期大統領が「内向き」であれば、己の国益に反しない限り、中国の軍事的冒険にも目をつぶって傍観してくれる可能性が大きい。
中国にとってこの混乱の機に乗じて、南シナ海、東シナ海、果ては太平洋西半分の権益を実力で奪取するまたとない好機。
中国がそんなことをするはずがないか?
否。
英国のEU離脱、今回の米大統領選だって「まさかの想定外」だったのだから、中国の電撃的海洋軍事攻勢だってあってもおかしくはなかろう。
米国追随しか選択肢がない日本の外交安全保障にとって、このような中国の軍事的冒険に抗する手立ては、ない。
指をくわえて為すがままに、尖閣諸島や沖縄を中国に持っていかれるだけだ。

そういえば、この次期大統領は「日本、韓国の核武装は容認する」とかなんとかも言っていたような。
これまた、どこまで本気なのかは解らない。
但し、韓国世論は、この機に核武装すべしという機運は高まっているという。
日本はこの期に及んでも「平和憲法」を信奉し、形骸化しはじめている日米安保を妄信して「核」なしで、中国の軍事力による現状変更に対処していくつもりのように覗える。
日本の行政府がどういう選択肢を鑑みているのかも知らない。
だが確実にいえる事は、賢明な未来ビジョンを推し示す事ができる指導者がこの国にいるとは、とても思えない。

今回の大統領選で露呈したのは既存メディアが伝える世論と選挙結果が食い違っていたこと。
多くの者は既存メディアが「真実」を伝えていないことに以前から薄々気づいていた。
しかしまさか本当にそうだったとは些かびっくりもする。
日本の既存メディアも似たようなもの。

その既存メディアによれば、これまで戦後一貫「日本は唯一の被爆国で国民は誰も核武装を望んでいない」と一般的に評している。
その根拠は知らない。おそらくそういっておくことが、誰かにとって一番都合が良いのだろう。
もし、今、国民投票か何かで日本の核武装の是非を問うた時、日本の既存メディアはこうコメントするだろうことは想像に難くない。
「国民は絶対的に核武装を選択するなんてありえない。そんな主張をするのは偏狭な保守主義者だけ」だけだと。
仮に投票結果が「核武装容認」と出たならば、既存メディアは何とするのだろう?
今回の大統領選挙みたいにあたふたするのか?
だがおそらく、この国でそんな国民投票はなされないだろうし、そんな「想定外」な結果も出ないだろう。
なぜなら日本は、英国や米国と違う。
日本は第二次世界大戦に敗北した「旧敵国」であって、核武装を許容する「世論」など「存在しない」ことにされているからだ。
既存メディアは、確かに「真実」を語らない。
誰かに「操作」され、誰かの都合によって嘘もつく。
そして、中国はまんまと尖閣と沖縄を手中にする。

北米大国はもう「世界の警察官」は辞めるのだろう。
遅かれ早かれ、自分の国を守るだけで精一杯となることだけは想像に難くない。
日本は「用心棒」を失う。
だからといって自分で己を守る気概もお金も武器も世論もないことにして「誰も攻めて来ない」という希望的観測のみに縋る国になる可能性が高い。
それはそれでよいのかもしれない。
世界に情勢に身を委ねて「為されるがまま」という生き方も一興だろう。

NHKテレビの大河ドラマ『真田丸』を何となく観ている。
そろそろ佳境だ。
大阪城に集いし血気盛んな牢人と守旧既得権にしがみつく豊臣家の確執構図が、どこかで見た光景に似る。
有能な武士は捨て駒にされ、既得権者は生き残りのために敵対勢力にすら擦り寄る。
いつの時代にも、損をするのは踊らされた「正直者」である。

今回の北米大国次期大統領も、結局巡り巡ってエスタブリッシュメントの御輿に担ぎ上げられ、彼らの代弁者に墜ちるかも知れない。中産階級の白人労働者は今よりも厳しい辛酸を舐めさせられるやもしれぬ。

実際どうなるかはわからない。
どこかで核爆弾が落ちて、一般市民は皆、壊滅し、ほんの一握りのエスタブリッシュメントだけが地下深いシェルターでひっそり生き残る未来が来るかもしれない。
そんなシェルターの中で、唯一の娯楽は次期大統領の理想郷を語る演説。
こんな滑稽かつ絶望的な時代が近づいて来る気がしてならない。

今年の冬はどの位寒くなるのだろう。





 

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/