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新海誠監督の新作『君の名は。』を観る。

映像鑑賞
09 /07 2016
新海誠監督の新作『君の名は。』を観てきた。
平日の午前中にも拘わらず、結構なお客さんで6割位席が埋まっていた。パンフレットは売り切れ。
興行的にはかなり上手くいっているような印象。
宮崎駿氏引退でジブリ新作が途絶えた中、細田守、庵野秀明、そして新海誠の3氏が、いわいる「ジャパニメーション」の後継屋台骨として期待されている背景がおぼろげに覗える。

『君の名は。』は前作に比べ、新海アニメらしさが復活し、総じて満足のいく作品だった。
新海誠氏の真骨頂は「鉄道」「天文」「ミリタリー」「無線」「PC」等の古典的少年ロマン趣味の核心的要素の琴線に触れる描写の完成度の高さに尽きる。
前作の『言の葉の庭』は、興業主からの注文でもあったのか、新海氏が描く世界から程遠い「体育会系」の汗臭いストーリーに重心を移していたので、感情移入出来る作品ではなかった。
新作の『君の名は。』も前半は、ややその傾向が残っていて、まどろっこしい部分もあったが、後半は己の「妄想系」にシンクロする出来だった。但し、なぜか今回は「ミリタリー」系の描写だけは巧みに避けられていたのが奇妙だ。
『ガルパン』や『艦これ』に対するアンチテーゼかもしれない。

それはさておき、新海氏の作品には一貫して「遠距離通信」というテーマが潜在している。
『ほしのこえ』では、恒星間メールのやり取りがストーリーの骨組みになっていたし、『雲のむこう、約束の場所』ではワイヤーアンテナを張り巡らした通信傍受施設のシーンがあったし、、『星を追う子ども』では主人公が「鉱石」ラジオで遠距離受信に勤しむエピソードも記憶に残る。
今回もチラッとアマチュア無線施設が出てきたし、ストーリー自体が、アマチュア無線を扱った米映画『オーロラの彼方に』を髣髴とさせる構成だ。
「無線」そのものが主題にはなっている訳ではないが時空を超えたタイムラグを伴う単向信方式で問いかける描写は卓越している。
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また『君の名は。』は古典的少年ロマン趣味の核心的要素と、その対極にある異性への求愛行動を巫女というアミニズムを憑り代(よりしろ)とした少女に求め、それらを巧みに編みこんで抒情詩的に仕上げている。
数千年の周期で隕石が落下する神聖な土地と、その聖域を伝承する巫女の存在。そして「ある目的」のために時空間を越えて「魂」「意識」だけを憑依させる術。
この作品は一種の「ティアマト彗星経典」ともいえる。
彗星の軌道描写の不自然さを指摘している感想も見られるが、そもそもこの「ティアマト彗星」は物理法則を無視した「何者かにコントロール」された存在なのかもしれない。
あるいはこの彗星は地球の衛星系で小惑星が地球の重力に捕まった物だったとしたら?
また、時空間を越える憑依は、彗星の落下エネルギーを利用して「歴史」を操作する「神儀」であって、それを神に代わって司り、実践するのがヒロインたる巫女であって、そして彗星落下で犠牲になる村人は彗星を操る「神人」への生贄として「神」に奉げられる避けられぬ運命であると。
それらはすべてこの彗星軌道を操っている「偉大なる存在」と、この神聖なる彗星落下地点に住む者との契約なのだ。
では主人公の青年はその「神儀」に干渉し、「神人」に逆らったのか?
あるいは、「神人」の意に反したのは、その実践者たる巫女のほうだったかも知れぬ。
いや、もしかするとその顛末すら彗星を操る「神人」のシナリオそのものだったのかも。

妄想は尽きない。

少なくとも自分にとってこの『君の名は。』の妄想系シンクロ率は高い。
複数回鑑賞して、この「ティアマト彗星経典」を堪能したいと思っている。

余談だが、自分が7月に発刊したコミカライズ作品『ストレンジャー』でも、1998年に飛来した「ヘールボップ彗星」を素材に、宇宙人に憑依されたヒロインを描いている。
あれほど肉眼ではっきり見えた彗星は初めてであり、その衝撃は大きかった。
下のイラストは『ストレンジャー』9話より、久米島の夜に大きくヘールボップ彗星が輝くシーン。
ストレンジャー9話08頁

恐らく新海氏も、あのヘールボップ彗星を直に観て、『君の名は。』発想の源にしたことは想像に難くない。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/