小湊鉄道探訪ロケハン

創作活動
09 /26 2009
9月25日、最近の煮詰まった創作状況を打開するためにロケハンに赴く。
家に篭って試行錯誤していても、埒が明かぬことは解っていたのでとにかく新たな素材を見つけてこなくてはならない。
場所は千葉県市原市にある小湊鉄道
ここは未だに未電化で情緒あるローカル線の雰囲気を保つ首都圏では稀有な風景が残る場所。
よって鉄道ファンに限らず、CMとかドラマでも舞台に使われているようだ。
廃線跡や廃墟、あるいはそれに準ずる場所は想像力を活性化させ、さまざまな妄想を掻き立ててくれる。
これまでも、西武安比奈線や鹿島鉄道を舞台にして作品を描いたことがあったから、この小湊鉄道もよいモチーフになってくれることに間違いない。
さて、メリハリのある画像をゲットするためには、やはり天気は重要である。
コントラストが強い写真は晴天下でないと撮れない。
あと、あまり観光客や鉄道ファンが押しかけている時期は避けたい。資料にする写真に「如何にも」な人物が写りこんでいたりすると素材としてマイナスだ。
よってシルバーウイークの連休が終わった平日晴天を待っていた訳だが、それが25日金曜日であった。
朝、7時半に阿佐ヶ谷自宅を出発。中央線、総武線を乗り継いで市川駅にて総武快速千葉行きに乗り換える。
千葉からは内房線で五井に向かう。
小湊鉄道の始発駅である五井に着いたのは9時17分頃。
すぐに9時22分発下上総上野行きに乗り込む。
ディーデル2両編成の古い列車だ。
車内は思ったより混んでいた。幼稚園の遠足らしい園児の団体客やらで席は一杯。
車内で一日フリー乗車券を女性車掌から購入。
大人1700円。これで路線内を自由に乗り降り出来る。券と一緒に列車時刻表を貰う。
これが役に立った。
列車本数が少ないのは知っていたが、時刻表まで調べてこなかったので細かなスケジュールは立てていなかったのだが、これで多少のめどは付いた。
それはさておき、列車は秋の日差しの下、のどかな田園風景の中をごとごとと走り続ける。
のんびりと車窓を眺めていたいのだが、目的はロケハンなので落ち着いていられない。
絵になりそうな風景を探してあちらこちら写真を撮る。
最初に降り立った駅は上総舞鶴駅。
駅舎に趣があるとネットで紹介されていたので、とりあえずこの駅周辺を探索することにした。
9時56分到着。次の下り列車は11時34分だ。
1時間半以上待たなければいけない。
無論、ここは無人駅。周りには店すらない過疎地帯。
たまたま駅舎のペンキ塗り替えで業者が作業中。ちょっとそれが邪魔であったが暫くすると業者も居なくなって、まったくの一人ぼっち状態。
聴こえるのは蝉と秋の虫の音と街道を走る車の音のみ。
DSCN9155b.jpg
沿線にはコスモスが咲いて何とも和やかな雰囲気である。
周辺の寂れた鉄路や錆びて朽ち果てかけた駅施設もいい味を出している。
誰も居ないから妄想力も発揮出来る。
予め大まかな構想は描いてあったので、それにしたがって場面設定に準ずる構図の写真を撮る。
人物配置を計算した写真だから、観光客や鉄道ファンが撮る構図とは若干志向が違う。
どうも一眼デジカメに装着したズームレンズがフィルムカメラからの流用なのでシャープな画像になってくれない。もっとも所詮は漫画素材用なので写真の仕上がりは二の次でよい。
後で脳内で補正すればよいこと。
駅舎には訪問ノートが設置されていて訪れた観光客が一筆記している。
DSCN9153b.jpg
不思議に1時間半の待ち時間が長く感じられず、このまま一日ここで呆けていてもよい位にまで思ってしまう。
都内に居ると1分でも電車が遅れるといらいらするのにこの違いは何だろう。
時間の流れが恐らく全然違うのだろう。
11時34分、この上総鶴舞駅を後にして、養老渓谷駅にと向かう。乗り込んだ列車はお座敷列車を連結した3両編成。
12時1分、養老渓谷駅着。
ここは有人駅で、職員や観光客も若干おり、賑やか。
DSCN9169b.jpg
駅舎にはネコが数匹飼われていて人気者らしい。
近くにはデイリー山崎ストアもあったのでランチパックを買って暫く休憩。
やはり平日とあって鉄道ファンらしい影は薄い。
それでもちらほら車内や沿線にそれらしい人影が見受けられるが、すぐに視界から見えなくなる程度なのは幸いだった。
DSCN9184b.jpg
13時23分の下りに乗って終点上総中野へ。ここは無人駅。
いずみ鉄道と接続しており、暫くすると黄色いいずみ鉄道の列車がやってきた。
30分ほどで折り返しの上り列車に乗って、いったん上総牛久まで戻る。時刻は14時43分。
ここは有人駅。
小湊鉄道は五井からこの上総牛久までは比較的本数も多く、昼でも1時間に1本位あるのだが、この先は1時間半から2時間に1本しかないので予め時刻表で調べておかねばならない。
15分ほどで次の馬立駅に。
ここで暫く下り列車を待つ。
この馬立駅もなかなか趣のある駅舎。おばさんが駅舎にいて近所の住人とずっとおしゃべりをしていた。
なんだか本当にのんびりしている。
この時間の流れこそが本来の生き方なんじゃないだろうか。いったい、これまで何で齷齪しながらバタバタ生きてきたのだろうと思わずには居られない。
上空には成田か羽田を離着陸する旅客機が比較的低空で飛んでいる。
ラジオからは最近開局した市原のコミュニティーFMが聴こえる。なぜかパヒュームの曲を流していて、この風景と不思議にミスマッチしていた。
16時23分、上り列車に乗り込み再び奥地へ。車内には下校中の女子高生がシートに横になって携帯をいじっている。これまた新鮮な光景だ。
16時44分、里見という無人駅に降り立つ。
すでに陽は西に傾いて夕暮れが迫ってきた。誰一人いない駅舎で独り物思いに耽る。
やはり廃墟や廃線、ローカル線に闇は付き物だ。
夜景撮らずしてローカル線取材は成り立たない。
17時39分の上りに乗り込み、午前中に訪れた上総鶴舞駅に再び降りる。
辺りはいよいよ闇に包まれ、明かりは駅舎と近くの街道を走る車のヘッドライトのみ。
蛙と秋の虫の合唱だけが響き、恍惚感に浸る。
いつの間にか細かな雨が降ってきた。
DSCN9247b.jpg
嗚呼、自分が求めていた「時間」とは、これなのかもしれない。
周りの空間から「人」の気配が消え去り、「自分対自然」しか残らない。
このうち捨てられた廃墟に近いローカル線駅舎には、失われて久しい「何か」が棲んでいる。
その「何か」に今、自分が喰われても後悔はしまい。
そんな気分になってくる。
自分が「詩」とか「文章」を生業としていたら、これで「一丁上がり」なのだが、漫画家はこれにこまを割ってその中に絵を入れていかねばならない。
嗚呼、なんとメンドクサイ商売なのだ。
そんな下らないことを考えていると、闇の中から一筋のヘッドライトが。
19時09分上り列車だ。
昼は周りの風景が見えていたから遠近感があったのであるが、いきなり闇の中から出てきたヘッドライトは、正に「銀河鉄道の夜」を連想させる程、不思議な光景。
その明かりがぐんぐん迫ってくる。
常夜の黄泉の国からのお迎えだ。
恐ろしい!
これから自分はこれに乗って再び引きこもり部屋に帰らねばならぬのだ。
いや、むしろ逆に最終の下りに乗って永遠に戻らない闇に包まれた線路の彼方まで行ってしまうのがよいのかも。
そんな妄想に掻き立てられながら帰りの途に就く。
19時44分、五井到着。
約10時間の小湊鉄道探訪であった。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/