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40年前の天文雑誌記事とWebの虚無

日常
04 /22 2015
作画資料を漁っていたら、1975年の「天文ガイド」が出てきた。
パラパラめくってみるとこの年の8月に出現した、はくちょう座の新星発見記事が載っていた。
なぜか当時、そんなトピックスがあったことは記憶にない。
早速興味津々で読んでみる。
この新星は比較的明るかったらしく、1等星まで増光したとか。
それを最初に発見したのは日本人で、それも高校生だそうである。
当時は、ネットも携帯もない。カメラも皆フィルムの時代。
写真も現像してみないと画像確認できないし、今日のように瞬時に情報が取得発信出来るツールなどない。だから確認にも手間取るし新星がすでに発見されているかどうかも判らない。
通報は電話か電報。結果の是非は翌日になって天文台から連絡を待って初めて知ることが出来る。
山奥で天体観測中だったら、麓まで戻って電話の場所を探すしかないから、恐らく第一発見者は他にも居たかもしれない。
日本中、ほぼ何処でもスマホでWebにアクセス出来てしまう今であったら様相は一変していたろうことは想像に難くない。
だけれども、当時のほうが何ともロマンを感じるのはなぜであろうか?
タイムラグのない情報取得ということは、ほんとうに幸いなことなのだろうか?
新星出現を自分の目で確かめる前に、誰かが先にWebに上げた画像で観たとしても、恐らく大した感動は得られまい。
知らないほうがいい事はたくさんある。

昨日、ニュースで流れたウェブ検索会社の地図が改ざんされたとかなんとか。
正直、まさに「タダより高いものはない」の典型だ。
毎日、便利に使っている検索サイトだが、これを運営しているのは営利企業。ボランティアで情報検索をユーザーに提供しているのではない。だからタダで使えると言っても必ず裏がある。
ここがサービスしているクラウドがあるが、ユーザーがアップした様々な画像はこの会社が勝手に無断利用してよいことになっている。
それに対してクレームは一切受け付けないらしい。
ようするに、この検索サイトやマップは数多の情報、データを取得して、それを会社の利益追求のために使う事にその目的がある。
ユーザーは気がつかないうちに個人情報や創作物、データをこの会社に利用され、権利も剥奪されてしまう。
恐ろしい会社なのである。
そんな会社が運営しているマップに公共性などあろうはずがない。
利益になれば出鱈目の情報だって載せるし、訂正の義務などないのだ。だから誤った情報が載ったことで誰かが不利益や損害を被った所で、彼らにとっては「知ったことではない」のである。
イヤなら「利用するな」である。
だから「タダより高いものはない」のだ。
Webの大半はそういうものであるから、タダだからといって野放図にWebに依存すれば、遅かれ早けれとんでもない出費を強いられるか、個人情報やデジタルデータの権利を奪われ、泣き寝入りするしかなくなる。

Webによる情報革命で1975年当時とは比べものにならぬほど、早く、大量に情報を得ることが出来るようになった。
しかし、その分「知らなくてよかった」情報も途方もなく流れ込んでくる。
むしろ「知らなくてよい」情報に押しつぶされて、「知りたかった」「やりたかった」事を失う機会のほうが多い。
無料検索サイトはそれをよく象徴する。
40年前の夏休み、夜空を見上げ、宇宙にロマンを感じた日々。
その手にはスマホもデジカメもなかった。
だが、それでよかったのである。
Webにアクセスしないことで、己の中にロマンを産んだのだ。
「あの星はなんだ?見たことがないぞ」
「撮ってみるかな?はたしてちゃんと写っているだろうか」
そう。それでいいのだ。
すぐに知る必要なんかない。
夏の銀河に想像を巡らせ、時を刻む。
そこに己だけの世界が広がる。

Webは虚無だ。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/