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2015年、春の妄言

日常
03 /24 2015
三寒四温というか、気が付くと春の気配。
花粉症は患っていないので自分としては一番落ち着けるシーズンかも知れない。

ラジオからは卒業の唄が流れ、おぼろげな早春の眠気を通してテレビやネットからは様々なアニバーサリーのビジョンが通り過ぎる。
それを傍観して気が付いたこと。

東日本大震災4周年とオウム真理教事件20周年の報道動画を見て奇妙な錯覚に囚われた。
そうだ。
上九一色村のサティアンと福島第一原発の風景が異様に似通っている。
薄汚く大急ぎで作られた放射能汚染水タンクの群とサティアンのサリンプラントとがオーバーラップしてみえるのだ。
防護服の人影も尚更にその印象を強くする。
穿った見方をすれば、この教団は20年後の日本の病巣を「予言」したんだと。
日本社会が20年前、斬って捨てた筈の「風景」がエヴァ量産機のごとく、福島に蘇生してしまった。
避けて通れない「何か」を日本は抱えている。
だから2015年に至っても尚、教団の屍から憑依した亡霊は日本中のあらゆる分野に彷徨っている。
上九一色村のサティアンを更地にし、その地名までも地図から消し去ったとしてもね。
実にに興味深いビジョンだと思う。

リクルート姿の大学生の群がテレビから流れる。
就職シーズン真っ盛りなのかは知らぬ。大手企業は新卒採用幅を増やしたとかなんとか・・。
新卒者は一流企業志向が強く、中小企業の採用事情は好転しないようなことも耳にする。
一流企業といえば終身雇用に専業主婦・・。
結局、人は変わらないのだ。
安定した高収入に未来への保障。
でも、そんな立場にありつくのは、縁故か超一流大学卒か、特殊技能を備えた者だけだ。
そして、そんな人材は極々限られている。

かつてこのシーズンは「春闘」とか呼ばれていた賃上げパフォーマンスがあった。
「労働者」が「経営者」に賃上げを要求するために、ストやデモで意思表示していたと記憶する。
でも最近は違うらしい。
ストもデモもない。
計画経済のごとく、国策として物価上昇が必要だから賃金も上げる必要があるとか。
だから「労働者」はストもデモもせず、賃金が上げられる。
自分達が要求するまでもなく、いやその意思に拘わらず賃金が上がる。
但し、その「恩恵」に与るのは正規雇用者という「一等市民」だけだ。
その「一等市民」と「経営者」の利害は一致しているから、もはや対立軸にはない。正規雇用者は経営者と共に搾取する側なのだ。
で、その新たな搾取される対象は、誰か?
いわいる非正規雇用者なのだろう。
この「二等市民」という階級に堕ちた非正規雇用者に「賃金の上昇」を要求する権利はあるようには思えないし、自ら要求する空気すらない。
結局、この日本には新卒正規採用、終身雇用に専業主婦を娶り、子供二人という「王道」に乗らない限り、まともな人生は保障されないのだろう。
その「王道」は高度成長期にはスタンダードに広く中産階級として、大多数の男子が恩恵を受けられていた。
しかし、いまやその「王道」は一部の限られた世襲か超一流大学卒か、特殊技能を備えた者だけの権利となった。
彼らは「一等市民」として、自ら運動することもなく、その特権的恩恵を享受する。
反面、非正規雇用、自由業者は「二等市民」として虐げられるしかなくなる。
明らかに、この日本は階級社会となったのである。
それを理解できない2、3流大学新卒者がいくら「就活」しようとも、その「一等市民」の席はすでに彼らが生まれる前から埋まっている。
なぜメディアはそれを彼らに知らせないのだろう。
だから、彼らが懸命に「就活」する映像を観ると、少し気の毒に思う。

最近、流されていた某百貨店の「女性応援キャンペーン」動画が非難を受けているという。
内容が女性を侮辱しているのがその理由と伝え聞く。
動画を見れば察しようから敢えて説明は省く。

ところでもしこの動画ストーリーの逆パターンとして、仕事の出来ない男性社員が女性の同僚からこう言われたらどうだろう。
「あんたの稼ぎはAさんの半分よ。男として情けないと思わない?」
多分、男からは抗議なんて来ないだろう。来たとしても「女々しい奴」「男は稼いでこそ一人前」「稼げないお前が悪い」と一笑に付されるのがオチ。
男の場合は、基本「歩くATM」が最低限の社会人レベルだと思う。
経済力のない男は、何も出来ない。
現実世界で生きていくことも、夢、希望の体現も不可能だ。
「一等市民」の男は資力においては絶対的に「二等市民」に勝っている。
例外は稀だ。
女性は男性に依存する選択肢はあるが、男は女子に経済的依存は許されないし、女子からも望まれていない。
男にとって経済力は人生において「勝利か死」である。
この動画に出演している「セクハラ」上司は敢えて女子からは叩かれる対象として描かれている。
が、この男がもし会社にとって必要不可欠な能力があったら、会社はその社運を賭けてこの男を擁護しよう。
宮崎駿監督の『風立ちぬ』の主人公のごとく、司直からすらも守るだろう。
万一、この男が退職を強いられたとしても、拾う会社はいくらでもあろう。
この男に能力がある限りは。
それに、この男がもし、イケメンとして描かれていたらどうだろう。
これほどの非難は上がらなかったに違いない。
これからの男は容姿と資力を伴わねば生きていけないとも取れる動画だ。
容姿は生まれで決まってしまうが、資力は勝ち取るものだ。
男はそのために闘争しなければならない。
だからセクハラ行為を処罰の対象とするのも結局、男達がライバルを失脚させるためのカードとして規定されたに過ぎない。
この動画を製作した会社が動画を削除したのも決して女性の権利向上と謝罪のためではない。
企業イメージを悪くしてライバルの後塵を拝さないためだ。

日本の男女給与格差は途方もない。
それを是正しないのは既得権を持つ男女双方の打算からだ。
その欺瞞を覆い隠すために「セクハラ防止」や「女性の管理職倍増」を盛んにアナウンスしている。
終身雇用や専業主婦を勝ち取れない「二等市民」の男女にとっては、むしろ逆に抑圧の手段になっているのだろう。

結局、日本社会は終身雇用と専業主婦の国なのだ。


睡魔に負けそうな目を擦りながら、テレビを消し、ネットを閉じる。
まもなく桜のシーズンだ。
「二等市民」すらも危うい己の立場を顧みたところでどうすることも出来ぬ。
渋谷の町の再開発と同様に、日本は半世紀で全て更新され、世の中はただ己の意思とは関係なく流れていく。
そして生き残るのは「一等市民」だけ。
その地位に至れないものが未来を語ったところで、所詮「胡蝶の夢」だ。
儚きぞ人生。
だから寝てしまうに限る。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/