『艦これ』と発掘戦艦武蔵

日常
03 /13 2015
『艦これ』のアニメを観た。
たまたまチャンネルを合わせたら放映していた。
観たくて合わせた訳ではないから、最初は何のアニメか解らなかった。
セーラー服姿の女の子が海上を滑りながら得体の知れない「敵」と闘っている。
よくある美少女戦闘アニメだ。唯一違っていたのは兵装が旧日本海軍であること。
自分は『艦これ』のゲームはしないからストーリーは正直皆目解らない。
率直な感想としては、頭がおかしくなった女子高生のグループが砲塔などの艤装品に似せた張りぼてを背負い、お台場辺りの海岸で史実に沿った戦争ごっこに励んでいる・・そんな情景しか浮かんでこなかった。

70年前、日本男子は国家のために命を賭して闘う兵役という責務があった。
兵役は逃れ得ない男子の義務であり、当然の通過儀礼であった。
戦後、帝国陸海軍は解体され、日本男子は敗戦によってその「通過儀礼」を失った。
更に、今日、日本男子はもう一つの必須「通過儀礼」である結婚すら失おうとしている。
兵役と結婚。
今の日本男子にとって、かつて当然の通過儀礼だったそれらは、もう妄想の中にしか存在しない。
軍艦に対する憧れと、少女に対する憧れ。
『艦これ』は、兵役と結婚という通過儀礼を失った男達が渇望の末、無意識に生み出した妄想だ。
闘争本能と異性への肉欲を同時に満たす『艦これ』の少女こそ、日本男子の求める理想的キメラ生物なのだ。

最近、アメリカ人実業家によってフィリピンの深海に沈んだ戦艦武蔵が発見され、その映像が動画サイトで公開されたという。
損傷は激しいが、当時、世界最大の超弩級戦艦であった武蔵の遺影ははっきりと認識出来た。
もし、武蔵が内地で沈んでいたらあっけなくスクラップにされたろう事は想像に難くない。
それは日本男子の兵役喪失と同じく、何の躊躇いもなく微塵に解体されてしまったろう。
しかし、武蔵は外地の海底深く眠っていたからこそ、その無慈悲な解体から免れたのだ。

武蔵の遺影は、今の日本男子が失っていた「大切な何か」を刺激する。
この奇妙なザワツキはなんだ?
日本人ではない誰かによって見出された発掘戦艦武蔵。

だが、武蔵は決して再起動することはない。
武蔵はもはや単なる一つの遺構、廃墟、鎮魂の墓標でしかない。

と同時にそれは、少子高齢化によって衰退の一途を辿る日本の姿そのものなのだ。
日本男子はもう、かつての世界に冠たる帝国海軍の一員として「復帰」することは永遠にない。
また高度成長期中産階級の安定した終身雇用と専業主婦で構成された理想的家庭を作ることも出来ない。
兵役と結婚という二大通過儀礼を失い、老い朽ちるだけの「終焉しつつある民族」の一員として、ただ滅びの道を歩むだけなのだ。
その哀れな日本男子の心の補完として『艦これ』はある。

深海に朽ち果てた姿を曝す戦艦武蔵。
その錆びた船体の割れ目から『艦これ』キメラ少女達が湧き出てくる。
戦後、兵役と結婚という通過儀礼を失った男達はそんな救いなき妄想に縋るしかないのである。

2015年、戦艦武蔵は、戦後絶望男子達の墳墓でもあるのだ。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/