枯れた庭の大樹

日常
08 /08 2013
家の庭に子供の頃から植わっていた大樹のヒマラヤスギが枯れた。
蔦が絡まってわかりにくかったが半年前よりどうも葉が茶色くなって夏というのに枝が露呈したまま。
枯れた原因はよく解らない。無理な剪定をしたとか、下を駐車場にしてコンクリートで埋めてしまったからなのか、あるいは単なる寿命なのかは知らない。
いずれにしろ、このまま放置するのは危ないというので親族が植木屋に依頼して伐採してしまった。
物心ついた頃より当たり前のように存在した大樹が1日にして存在しなくなった喪失感は恐ろしい。

このヒマラヤスギは確か父方の祖父が70年ぐらい前に植えたと聞いた。
大樹には守護神が宿っていてトトロのような精霊も居たに違いない。
それが一瞬にして消えたのだ。
ぽっかりと空いた空間から、邪な悪霊がヒタヒタと侵入して我が心身の安らぎを犯さんと迫ってくるようで恐ろしくて仕方ない。

カタチあるものはいつか必ず壊れ、命あるモノはいつか必ず朽ちて死ぬ。
己を守護していた存在はいずれ全て朽ちてしまう。
恐ろしい。恐ろしい。
だから人は次世代を育むべく、子を産み、育てるのだ。
しかし妻も娶れず、子も居ない甲斐性なしの50代独身男性にとって次世代を育む術はない。
周りの全ての存在が朽ち滅びていくのをただ黙って見ているしかないのだ。
やがて忌まわしき悪霊が己を食い千切らんと虎視眈々狙っている。
ヒタヒタと恐怖がやってくる。
恐ろしい!恐ろしい!
大樹の守護は失われ、砦を失った50代独身男性に身を守る術はない。

少し前、馴染みのバーの同じ歳の独身50代マスターが呟いていた。
「50代はきついよ。60代になれば楽になれるそうだが、50代・・乗り切れるかな・・」
恐ろしい!恐ろしい!
伴侶を持たぬ50代の孤独は筆舌に尽くしがたい。
甲斐性もなく彷徨う様は絶望そのものだ。

男は「歩くATM」でなければならぬ。なぜなら女は全て「依存系」だからだ。
経済的依存に応える甲斐性がなければ妻など娶れるはずもない。
妻を娶らなければ男としての価値はどこにもない。まして50代で甲斐性なしは生きている価値すらない。
蓄えがあれば己を騙しつつ、天寿を全うすることも可能かもしれぬ。
しかし、蓄えも甲斐性も何もない50代独身男性に残りの人生を語る資格はない。

子供の頃、見上げた大樹は消えた。
そして、今度は己が朽ち、枯れてもんどりうって倒れる番だ。
恐ろしい。




あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/