ナイトウォーカー

ラジオ
01 /07 2013
日曜深夜の中波ラジオ。
大方の民放は休止して停波している時間帯だ。
昨晩、ふとその中波帯を何気なくチューニングしていると、ユーミンの古い楽曲をノンストップで流しているのに気が付いた。
周波数は1260KHz。東北放送だ。
恐らく試験放送なのだろう。
暫く聞き入っていると印象的な曲が流れてきた。
たしか曲名は「ナイトウォーカー」だったか。
日曜深夜、エーテルの中を軽いフェーディング混じりにヘッドフォンから流れ出る懐かしき楽曲に暫し耳を傾ける。
ここ数年、ユーミンなど聴くきっかけすらなく、記憶の彼方に埋もれていた。
だが、この思わぬ試験放送ノンストップユーミンのお陰で、当時の恥ずかしき色恋沙汰が甦る。

1980年代初頭の学生時代、その頃はユーミン全盛期だった。
ユーミンをBGMに多感な青春時代は過ぎ去っていったのだ。

当時の恋愛観は、今思えば大変中途半端かつ過酷だった思い出がある。
見合い結婚が減り、自由恋愛が結婚への第一歩となりつつあった時代。
ところが当時、恋愛に長けている男子など一握り。
大方の男子は恋愛に疎く、9割方が惨めな失敗に終わっていたような記憶がある。
その上、当時の女子は男子に「高学歴、高身長、高収入」という条件を当然のように要求し、生活の糧の全てを依存しようと望んでいたから敷居が恐ろしいほど高く、その振る舞いは残酷でもあった。
当時のドラマやアニメは、クラスに一人居る「マドンナ」のハートを射止めんがため、「その他大勢の男子」が涙ぐましいほど切磋琢磨し、人生を賭けて求愛に励むシーンが珍しくなかった。
「マドンナ」たる女子は好条件の男が闘争で勝ちあがってくるのを、ただ座して待って居ればよかった。
そしてその闘争で勝利した男子と結婚し、専業主婦として生涯連れ添えば大団円。
1970~80年代はそんな恋愛事情がスタンダードだった。

一方、恋愛闘争に負けたその他大勢の男子は惨めであった。
体力、気力を使い果たし、何一つ得られるものはない。
元々、恋愛術など持ち合わせていない男子がいきなり恋愛という手段で伴侶を獲得出来る筈もなかろう。
にも拘らず、恋愛至上主義の台頭によって、恋愛を強いられるのは、真に悲劇であった。
初恋=結婚と信じられていた時代において「失恋」は人生の失敗そのものだった。
その痛手は大きく、「失恋」した男たちは女々しくもユーミンやオフコースを聞いて己を慰めるしかなかったのだ。
だからこれらの楽曲を聞くと、当時の心の傷が疼いて仕方がない。

時代は流れた。
もう、女子は男に全てを依存しなくなり、男子も女に「夢」を抱く事をやめてしまった。
だから、ユーミンも過去の残滓として記憶から去ろうとしている。
遠くになりにけり1980年代。

先日、年賀状の中に五十路に掛からんとしている大学のサークル後輩からの便りを見つけた。
彼は人一倍のユーミンファンだった。
「ウォークマン」片手によく部室の片隅でユーミンのアルバムに聞き入っていた記憶がある。
そんな彼も昨年、一児の父親になったと、その年賀状には記されていた。
遅ればせながら紆余曲折の末、「人生の勝利者」の仲間入りである。
心から賛美を贈りたい。

朝、日曜深夜のノンストップユーミンに刺激されて、書庫から昔ダビングしたユーミンの楽曲を引っ張り出してきた。
テープ制作は1984年。
今から29年前だ。
フジカセットER46分テープに収録されたその楽曲はまったく劣化もせず、良い感じで再生できた。
その中に「ナイトウォーカー」も入っていた。
真夜中、失恋の痛手を癒す手立てもなく彷徨う、捨てられた悲哀を嘆く歌詞がズキズキと己の古傷を刺激する。


そうだ。自分は学生時代より四半世紀以上、ずっとこの歌詞の主人公の如く、当て所ない「真夜中」を彷徨っているのだ。
深夜の街頭。
次々消えてゆく店の灯り。
心を駆り立てるシャッターの音。
そんなコンビニもなかった時代から今尚、伴侶を娶ることも出来ず、子を設ける事も間々ならず、真っ暗な絶望の中を彷徨い続けているのだ。
もはや残された時間は、ない。

日曜深夜のラジオは時として人を「夜の迷宮」へと誘い出し、打ちのめす。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/