お蔵入りした1枚のイラスト

創作活動
07 /18 2012
お蔵入りした1枚のイラストがある。

今年の3月下旬に、あるゲームのコミカライズ企画の執筆打診を受けた。
ゲーム名は伏せておく。
企画内容は月24ページのペースで来年一月までに単行本にまとめるとのこと。
アシスタントを使えない作風の自分にとってかなり厳しい企画であることは承知していた。
だが月産24P程度は漫画としてノーマルな生産量。
これを断わっていたら、そもそも漫画を生業としていると言えるのか?
仕事を選べる状況ではない事もあり、思い切って依頼を受諾することにした。
もっとも月産24Pが無理難題という訳ではなく、描き方を根本的に変更することでなんとか解決しそうだった。
そのための試金石としては申し分ない企画と言えた。

打診を受けてから作家選考の後、4月半ば頃に正式に執筆が決まった。
さて、原作付きの仕事は恐らく初めて(アンソロジーを除く)だったので不安がないといったら嘘になる。
担当さんによるとゲームのコミカライズは作家にお任せタイプと事細かく指示してくるタイプがあるそうで、最初はどちらか解らなかったのだがどうやら後者の様子。
これはちょっと厄介だ。
5月半ばあたりよりキャラクターラフやらメカラフをゲーム原案設定書から描き起こして、一つ一つ磨り合わせていく。
ただ、その行程が編集プロダクション→コミック編集部→原作元のゲーム会社と多岐に渡っており、それぞれの意向が微妙に異なっている。
多くの人が拘わるほど話がまとまらなくなるのは世の常だが、まさにその典型の感じがした。
原作付きであるから当然原案が上がってこなければ実際のプロット作りにも入れない。
それにかなり待たされた。
原案が提示され、その原案から独自のオリジナルストーリー、キャラクターを構築。
ようやくプロットOKが出たのは6月中旬。
シリーズ全7話で構成されるコミカライズプロジェクトの骨子がやっと固まったのだ。

しかし初回の締め切りがすでに7月後半に迫っていた。
資料集めや絵コンテはそれからだ。
スケジュール的にはかなり困難。余裕はどこにもない。
最初の絵コンテが7月初旬に出来て担当さんにお渡しして結果待ち。
この絵コンテでは比較的見開きを多様(ページを稼ぐためでもある)し、シンメトリーな構図で1枚絵を基調にした。
無論、これが即OKとなることは経験上ありそうもない訳で担当氏や編集部とのやり取りで落とし所を探り、承諾が下りて作画に入るというのがこれまでの経験則。
今回もその思惑でアプローチしたのだったが・・。

しかしその最初の絵コンテがアダになった。
この段階で様々な行き違いや誤解が露呈し、企画進行が完全に停止してしまう。
結局 、編集部側が考えていたイメージとまったく一致しないということが伝えられる。
作画ペースの不安や納期の問題も相まってコミカライズ企画はこの時点で事実上終了となった。
すでに連載開始時に掲載する予定だった告知カラーイラストは完成しており、いよいよ本編作画に入る状況であったのだ。
正確に言えば第一話前半はラフ下書きまで進んでいたのだ。

現在、このコミカライズ企画は自分の手を離れ、今後の行方は未定である。
リセットの理由も本当のところはよく解らない。
もっとも、それを知ったところで末端の漫画家にはどうすることも出来ないのだが。
いずれにしろ、多くの時間と手間をかけた設定やシナリオを生かすことが出来ぬままに終わってしまった。
正に断腸の感。
私を選定し期待をかけてくださった担当氏にも大変申し訳ない思いだ。
己の力不足が悔やまれる。

この企画頓挫は誰が悪いという類のものではなく、どこかしら最初から無理があったように思う。
自分に依頼が来たのは「作風」「世界観」が好まれて選定された訳ではなく、取りあえず原作元ゲームのジャンル(戦争モノ)が描けそうな作家という観点のみでチョイスされたらしかった。
更には今回、仕事相手が初めての人ばかり。原作付きも慣れていない。
スケジュールに余裕があれば行き違いや誤解、やり直し、修正、進行の建て直しなどで補完が可能になり、お互いがどこに向おうとしているかの意思の共有が維持出来る。
拘わる人数が多ければ多いほどその補完作業は大切だ。
だが、そのような「磨り合わせ」を十分設定しないまま、取りあえず「やるしかない」となれば、遅かれ早かれ破綻がやってくる。

もっとも、漫画、アニメ、ゲームの様々な企画には余裕などないのが当たり前。
だから大抵のプロジェクトはどんどん後にずれていくもの。
しかし今回はそれすら許されないタイトなスケジュールの縛りがあったようだ。

今後、このゲームのコミカライズ企画がどうなるのかは知らない。
企画自体が消滅するのか、突如復活するのか、他の漫画家によって改めて立ち上がるのかはまったく解らない。
しかし、時間をかけてこのゲームの世界観を読み取り、原案からオリジナルのストーリーを書き上げたプロットを最後まで自分の漫画で仕上げられなかったのが無念でならない。
もしかすると己が書き上げたプロットを素に、他の漫画家氏がコミカライズしてしまうかも知れぬ。
気分がよいことではないが、原作付きとなると何処までが自分の著作物として守れるのか皆目見当がつかないのだ。
「コミカライズプロット考案者」としての立ち位置は存在するのだろうか?

もっと割り切って「自分」を捨てて取り組んだほうがスムーズに企画進行が進んだかもしれない。
しかし「これだけは描きたい」「この構図は外せない」ものを捨ててしまえば己が漫画家としてやってきたことを否定することになり、モチベーションも上がらない。
漫画家としての性として、これは仕方がなかったのだろうか。
いや、原作付きの共同作業であれば、それを捨ててこそ真の漫画家か。
何とも答えは出ない。

漫画、アニメ、ゲームの様々な企画が途中で頓挫するのはよくある話と聴く。
自分にとって初めての経験ではあったが、これを礎に今後の糧に出来れば幸いと思う。

迷ったが、お蔵入りとなった告知イラストを死蔵させるのは忍びないので一応ここにアップしておく。
本来であれば誌面(といってもwebコミック誌だが)を飾った作品だ。
版権モノであるから削除する可能性もある。
取りあえずこの絵からどんなコミカライズが描かれようとしていたのか夢想していただければ幸いである。
重ね重ね残念だ。
kokuchi01.jpg

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/