早川書房刊『ローバー、火星を駆ける』を読む

読書
07 /18 2012
早川書房刊『ローバー、火星を駆ける』という本がある。
2004年に火星に着陸し、今尚火星上で活動している火星ローバーの開発ドキュメントを記している。
著者はアメリカの火星ローバー計画研究代表者スティーブ・スクワイアーズという人。
この本の醍醐味はローバー計画そのものよりも、著者が火星探査計画に興味を持ち、幾度となくプロジェクトを立ち上げるも、尽く頓挫失敗を繰り返していった挫折の歴史である。

この本によると科学技術の大プロジェクトには4つの基本的要素があるそうだ。
すなわち、コスト、スケジュール、成果、リスクの四つ。
火星探査プロジェクト決定権を持つNASAはその4要素を吟味し、計画の是非を下す。
科学者や技術者はその基本要素をクリアすべく孤軍奮闘する。

また著者はエンジニアにとって最も尊ぶべきはマージンであると説く。
マージンとは最低限出来なければならないことと、必ずできる事の差であるという。
本文によると「何かを作るときには必要とされる以上の能力を設計の段階で持たせておきたい。例えば3階の窓から飛び降りても理論的に命に別状がないと解っていれば、2階から飛び降りるのは3階や4階から飛び降りるよりも気持ちがずっと楽だろう。このゆとりがマージンということ」らしい。
マージンは活動期間、予算、納期等を計算する時に「ある程度のゆとり」を設定して遅れや不足分を補完するのに用いられる。
頭のいいエンジニアはどの部分にも適切なマージンをとって最低ラインだけを満たすように設計するそうだ。

火星探査計画は大凡2年ごとに好都合なウインドウが開く。
地球と火星の公転周期の違いによって、その時期が決まる。そのウインドウを逃すと次の2年後まで計画は延期せざるを得なくなる。
だからこのローバープロジェクトもスケジュールとの闘いだったようだ。
本書にはその様子が克明に記されている。

ことを進めるのは人間である。
計算しつくされたプロジェクトも硬直した官僚組織、限られた予算、タイムリミット、理不尽な予定変更、世論、技術的困難等によって次第に綻びが拡大していく。
そして大抵の企画は完遂半ばで頓挫するのだ。

如何に一つのプロジェクトを完遂させるのに多くの者の熱意と集中力が必要か、またタイミングや幸運すら味方に付けなければ為しえぬかを思い知らされる。

このような事例は、なにも国家主導の科学プロジェクトに限った事ではない。
個人レベルのあらゆる日常業務や創作活動においても基本は皆同じだ。


著者の目指した火星ローバープロジェクトはそんな何回もの頓挫の上に築き上げた末の稀有な成功例だ。
しかし、一貫した志さえあれば願いはいずれ成就するという信念は揺らがない。

因みに来月六日には新たな火星探査車「マースサイエンスラボ」が火星の地層露出が著明なクレーターに着陸予定である。



あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/