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無能な者に天は微笑まない

日常
07 /14 2012
どうでもいい話。
先日、たまたまBSで落語家の立川談志に焦点をあてたドキュメントを観た。
落語に造詣はないし、この人も単によくテレビで見た毒舌有名人の一人というぐらいの知識しかない。
さて、番組の中で弟子の昇進試験みたいのがあって談志が矢継ぎ早にまったく別ジャンルの芸を要求するシーンがある。
ほとんどイジメであるが、弟子に何を身につけさせたいかは何となく解った。

別の日に、さだまさしがアイドルグループのために即興で曲作りする番組を民放で観た。
談志と同じく、さだまさしに造詣はないし曲もよく知らない。これもたまたまチャンネルを合わせただけ。
アイドルに即興で歌詞の断片を提出させ、さだまさしが組み上げていく。
収録番組であるから予めどこかに仕込みはあるのだろうが、とりあえず番組内で1曲仕上げていた。
短時間で曲を仕上げる能力というのは、この位のレベルにいる人間であれば造作もない事と思われる。
ソングライターの必須条件なのだから別段驚くほどのことでもない。
おそらく躊躇も迷いもなくダイレクトに天から楽曲が舞い降りるのだろう。
「作る」のではなく「降りてくる」のだ。
第1線にいるクリエーターはある意味、天とコンタクトしているのである。


随分前、伊集院光がニッポン放送で夜の生番組を担当していた頃、リスナーだった自分は頻繁にファックスを出していた。
ある日、自分の送ったネタファックスが採用され、それを伊集院があっという間に面白おかしくアレンジしてトークに組み入れたのを聴いた時、「ああ、これは本物だな」と思った。
おそらく構成作家が手を入れる間もなかったろう。仕込ではなく即興であることに疑いはない。
なぜならそのネタは数分前まで自分の頭の中にしかなかったのだから。
僅かの時間で素材を一瞬に昇華する能力。
これがないとどんな世界でも第一線には立てない。
談志が弟子に矢継ぎ早にまったく異なるジャンルの芸をやらせたのは、おそらくこの辺りの能力を試していたのだろう。
落語にしろ、歌にしろ、DJにしろ、即興で様々な持ちネタを素早く披露できなければこの世界では生きていけない。

芸を生業とするものに「余裕ある時間」など与えられないのだ。
とにかく頭の回転を早くして次々に臨機応変且つ大胆不敵に表現していく事が必須になる。
こういうのは、多分天性であろう。
後天的な訓練で身につくものではない。
幼い頃から貪欲に何か作り出したいという本能がそうさせるのだ。
さらにプロの世界で切磋琢磨し己の表現能力が磨かれていく。
それでも脱落する者は数知れない。

だからそんな能力が最初からない者は「モノつくり」「表現者」の仲間入りすら出来ずに人生街道から消えてゆく。
サラリーマンにもなれず、クリエーターにもなれず、そしてコンビニのバイトすら出来ない者が今日も日本中の寂しい部屋の隅で絶望に陥って泣いているのだろう。
目が覚めればテレビから『笑っていいとも』。
しかし、己は「笑われる身」。
芸ではなく人生をね。

しかし、残酷にも天から降りてくる「恵み」はない。
そんな者に天は何も与えないのだ。

あるのは惨めな己の姿。
世間から嘲笑される人生のみが横たわる。

無能な者に天は微笑まない。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/