「独りごっこ」の世界配信
日常
数週間前の伊集院光のラジオで気になったトーク。
「面白い時代になったものだ」で切り出したのは、動画サイトなどで配信されている生放送のこと。
かつては自分の部屋の中でのみで自己完結していた「DJごっこ」や「アイドルごっご」「芸人ごっこ」が今やインターネットを通じて「世界配信」されてしまうことに驚きを感じると氏は語る。
伊集院光を含めて1980年代以前に子供時代を過ごして来た者にとっては「独りごっこ」の類は部屋の中で引き篭もってひっそり嗜むものだった。
当然ネットなるもの等ないから誰も見ていない。精々あったとしてもミニFM位。
干渉してくるのは親とか兄弟程度のもの。たとえ途中で邪魔されたところで当事者以外には関係ないのである。
しかし、今やそんな「独りごっこ」すらパソコンとカメラさえあれば全世界に生中継出来るのだ。
部屋にお母さんが乱入してくるハプニングを含めてね。
「独りごっこ」なるものは「夢」の体現である。
誰も一夜にしてアイドルや人気DJにはなれない。
しかし、その真似事なら可能だ。
アイドル、DJ、歌手、アクター、芸人に成り切ってパフォーマンスすればよい。
かつてはそれを単独で不特定多数に「披露」する手段はなかった。
それをするには芸能事務所や放送局、劇団に入り、競争を勝ち抜き、狭き門を幾重にも突破しやっと人目に触れる事が可能になる。
恐らく志願者の1万人に一人にも満たない確率だろう。
だが今はネットというツールを使えば、その「関門」はいとも簡単にショートカットする事が出来る。
競争する困難を回避して己のパフォーマンスを世に問うことが可能なのだ。
己に才覚があるかなしか等はこの際、関係がない。
自分の表現したい事がダイレクトに世界と繋がっているところに意味があるのだ。
どんなに稚拙であろうと、その「独りごっこ」は衆人の目に晒される事になる。
かつてはプライベートな戯言だった「独りごっこ」が世界規模のショーに格上げされたのだ。
もはや「成り切る」だけであれば、あらゆるクリエーターの肩書きを持つことが出来る。
それは途方もない錯覚ではあるけれど、本人にとってそれが「幸せ」であれば他人がとやかく言うことでもない。
そんな「独りごっこ」も上手くすれば物凄いアクセス数を稼ぎ、プロをも凌ぐ人気を博す可能性もゼロとはいえない。
しかし、大半の「自称クリエーター」達は結局「独りごっこ」遊びの域を出ず、世界中に恥を晒して伊集院光のトークネタに収まるのが関の山なのだ。
40代フリーター「自称スーパーDJ」は今夜も生配信中。
だが、突然隣の部屋から邪魔が入る。
70代の母親だ。
母親は嘆く。
「こんな遅い時間に何やってるの!いい歳してDJの真似事なんておやめなさい!
40過ぎて米潰しのくせに!
あんたの小学校時代の同級生のT君なんて今や2児の父親よ!
それに比べてあんたはまともな仕事すら就いてないじゃないの。嗚呼なんて情けないやら。
ご近所にも迷惑なんだからさっさと寝なさい!」
すると「自称スーパーDJ」のフリーター息子は叫ぶ。
「黙れ!ババア!俺は今、全世界の迷える民に向けて地球の危機を訴えているんじゃ!
俺は救世主なんだ!そこらへんのサラリーマンとは違うんじゃ!向こう行け!
俺の神聖なトークショーを台無しにしやがって!ちくしょー!」
こうして今夜も更けていく。
そう、これは新しい可能性かもしれない。
エントロピーの増大によって未来は築かれていく。
かつては埋もれてしまった「心の叫び」が、摘み取られる事なく世界に「配信」されるのだ。
小松左京の小説『結晶星団』に描かれていたように、檻の中に閉じ込められていたあらゆる禍々しい可能性が宇宙に解き放たれたのだ。
そうだ。
たとえフリーターの戯言だったとしても何十億人の中の一人にとっては人生の救いになったり、後の大統領になる人物を覚醒させたりする。
一方ではこれを聴いて「ああ、こんな大人になりたくないなあ。夢は20代半ばまでに後始末しなきゃいけないんだ」と悟る若人もいる。
ある意味「反面教師」としての役割も担える。
だから「独りごっこ」世界配信は決して無駄な試みとはいえない。
伊集院光がこれらの生配信を面白がれるのは、彼が幸いにも本物の人気DJに納まっているからだとも言える。
一方で今日もどこかで夢破れたコンビニバイト40代独身男性が、ネットで「独りごっこ」生配信DJに興じているのかもしれない。
だが自分はそれを笑うことは出来ない。
たとえアクセスが一晩に10しかなかったとしても、その中に「希望」が隠れていないとは限らないのだ。
本物のDJから慰み者にされても「独りごっこ」の世界配信はつづく。
万に一つの可能性に賭けて。
今夜もそんな「人生の敗北者」たちが藁をも掴む思いでネットの海に泳ぎ出していく。
彼らの無念の言葉が寂しいネット住人と共振し、心の傷を舐めあうのだ。
哀しいけれど、それもまた人生である。
「面白い時代になったものだ」で切り出したのは、動画サイトなどで配信されている生放送のこと。
かつては自分の部屋の中でのみで自己完結していた「DJごっこ」や「アイドルごっご」「芸人ごっこ」が今やインターネットを通じて「世界配信」されてしまうことに驚きを感じると氏は語る。
伊集院光を含めて1980年代以前に子供時代を過ごして来た者にとっては「独りごっこ」の類は部屋の中で引き篭もってひっそり嗜むものだった。
当然ネットなるもの等ないから誰も見ていない。精々あったとしてもミニFM位。
干渉してくるのは親とか兄弟程度のもの。たとえ途中で邪魔されたところで当事者以外には関係ないのである。
しかし、今やそんな「独りごっこ」すらパソコンとカメラさえあれば全世界に生中継出来るのだ。
部屋にお母さんが乱入してくるハプニングを含めてね。
「独りごっこ」なるものは「夢」の体現である。
誰も一夜にしてアイドルや人気DJにはなれない。
しかし、その真似事なら可能だ。
アイドル、DJ、歌手、アクター、芸人に成り切ってパフォーマンスすればよい。
かつてはそれを単独で不特定多数に「披露」する手段はなかった。
それをするには芸能事務所や放送局、劇団に入り、競争を勝ち抜き、狭き門を幾重にも突破しやっと人目に触れる事が可能になる。
恐らく志願者の1万人に一人にも満たない確率だろう。
だが今はネットというツールを使えば、その「関門」はいとも簡単にショートカットする事が出来る。
競争する困難を回避して己のパフォーマンスを世に問うことが可能なのだ。
己に才覚があるかなしか等はこの際、関係がない。
自分の表現したい事がダイレクトに世界と繋がっているところに意味があるのだ。
どんなに稚拙であろうと、その「独りごっこ」は衆人の目に晒される事になる。
かつてはプライベートな戯言だった「独りごっこ」が世界規模のショーに格上げされたのだ。
もはや「成り切る」だけであれば、あらゆるクリエーターの肩書きを持つことが出来る。
それは途方もない錯覚ではあるけれど、本人にとってそれが「幸せ」であれば他人がとやかく言うことでもない。
そんな「独りごっこ」も上手くすれば物凄いアクセス数を稼ぎ、プロをも凌ぐ人気を博す可能性もゼロとはいえない。
しかし、大半の「自称クリエーター」達は結局「独りごっこ」遊びの域を出ず、世界中に恥を晒して伊集院光のトークネタに収まるのが関の山なのだ。
40代フリーター「自称スーパーDJ」は今夜も生配信中。
だが、突然隣の部屋から邪魔が入る。
70代の母親だ。
母親は嘆く。
「こんな遅い時間に何やってるの!いい歳してDJの真似事なんておやめなさい!
40過ぎて米潰しのくせに!
あんたの小学校時代の同級生のT君なんて今や2児の父親よ!
それに比べてあんたはまともな仕事すら就いてないじゃないの。嗚呼なんて情けないやら。
ご近所にも迷惑なんだからさっさと寝なさい!」
すると「自称スーパーDJ」のフリーター息子は叫ぶ。
「黙れ!ババア!俺は今、全世界の迷える民に向けて地球の危機を訴えているんじゃ!
俺は救世主なんだ!そこらへんのサラリーマンとは違うんじゃ!向こう行け!
俺の神聖なトークショーを台無しにしやがって!ちくしょー!」
こうして今夜も更けていく。
そう、これは新しい可能性かもしれない。
エントロピーの増大によって未来は築かれていく。
かつては埋もれてしまった「心の叫び」が、摘み取られる事なく世界に「配信」されるのだ。
小松左京の小説『結晶星団』に描かれていたように、檻の中に閉じ込められていたあらゆる禍々しい可能性が宇宙に解き放たれたのだ。
そうだ。
たとえフリーターの戯言だったとしても何十億人の中の一人にとっては人生の救いになったり、後の大統領になる人物を覚醒させたりする。
一方ではこれを聴いて「ああ、こんな大人になりたくないなあ。夢は20代半ばまでに後始末しなきゃいけないんだ」と悟る若人もいる。
ある意味「反面教師」としての役割も担える。
だから「独りごっこ」世界配信は決して無駄な試みとはいえない。
伊集院光がこれらの生配信を面白がれるのは、彼が幸いにも本物の人気DJに納まっているからだとも言える。
一方で今日もどこかで夢破れたコンビニバイト40代独身男性が、ネットで「独りごっこ」生配信DJに興じているのかもしれない。
だが自分はそれを笑うことは出来ない。
たとえアクセスが一晩に10しかなかったとしても、その中に「希望」が隠れていないとは限らないのだ。
本物のDJから慰み者にされても「独りごっこ」の世界配信はつづく。
万に一つの可能性に賭けて。
今夜もそんな「人生の敗北者」たちが藁をも掴む思いでネットの海に泳ぎ出していく。
彼らの無念の言葉が寂しいネット住人と共振し、心の傷を舐めあうのだ。
哀しいけれど、それもまた人生である。