己の妄想を安く見積もってはならない

創作活動
05 /21 2011
他愛のない話である。

たまに漫画家デビューを目指している若い人の持ち込み記なんていうのを掲示板やブログで目にする。
同人誌イベントでも出張編集部持ち込み等の企画がある。

漫画家は編集者を選べない。
ましてやデビュー前の漫画家志望者は尚の事だ。
持ち込み面談担当の編集者が如何なる存在であるか、おそらく漫画家というものはその時点で運命が決まってしまう気がする。

漫画家という商売、いや商売として成り立っているかは別として、己の妄想を紙と鉛筆のみで体現し世に問う事の出来る稀有な生業である。
これが成功すればこれほど喜びに満ちて美しい人生はない。
逆に失敗すればこれほど惨めで残酷な人生はない。

己の妄想をこの世に問うためにはその媒体である出版社を通さねばならない。
だから漫画家にとっての関門はまず「よき理解者」たる編集者との出会いが最低限の条件だ。
と同時にその理解者が「実力者」でなければいけない。
自分の創作物が世に出てそれが認められるための絶対条件はここにある。

漫画家のみならず、様々なクリエーターと称される生業に資格とか経験とか年功序列とか、そんなものはあまり関係がない。
己の感性を如何にダイレクトに世間に投射するかに全てが掛かっている。
歳を重ねるごとに人の感性は衰えてくる。
だから出来るだけ早く己の力を世間に問うチャンスを獲得しないとこの世界では生きていけない。

商業誌デビューを目指して出版社通いをする漫画家志望者の数が今、どれだけ居るかは知らない。
成功への道は千差万別で一概に語れるものでもない。
ただ、これだけは言える。
何回か編集部に通っていつも抽象的でネガティブな指摘ばかりされていたら、さっさとそこを諦めたほうが良い。
結局のところ、新人だろうとベテランだろうとその作家に見込みがあれば、早々実務的な応対に移行するだろう。
それがいつまでたっても実際の原稿作画に入れぬまま、煮え切らない編集者の「お説教」ばかり聞かされているようではもう見込みがないということだ。
その雑誌に向いていないか、漫画家として無能か。そのどちらかだ。
だから幾ら通い詰めてもよい結果など出るはずもない。
根気よく詰めていけば結果が出るなんて考えてはいけない。
結局、抽象的な指示ばかりとか、言っている事が毎回違うとか、自分の長所を欠点として指摘するばかりとか、編集長からダメ出しされたから最初から直せとか、非生産的「打ち合わせのための打ち合わせ」が延々と続くのが関の山。
編集者は勤めていれば給料が出るが、漫画家は原稿を雑誌に掲載しなければお金が貰えない。
大成する漫画家の多くは、おそらくデビュー当時から順風満帆のケースが多かろう。
苦労し何年も下積みして50歳でやっとデビューしたなんて漫画家はいない。居たとしても極例外。
最初が肝心で、最初に躓けば恐らくもうこの世界で生きてはいけない。
つまりある程度成功している漫画家というものはデビュー時点で「よき理解者」かつ「実力者」の編集と出会っているのだ。
その出会いがない漫画家志望者は、もう漫画家にはなれないのだ。
だから、持ち込みなり新人賞なりに応募した時点でどんな編集者が面接してくるかが肝心。
それで全てが決まってしまうといっても過言ではない。
もし、その編集者がこちらの漫画にあまり関心なさそうな「義務感」で対応してくるような人物であれば一目散にそこから逃げ去ることだ。
最初から自分を低く見ている編集部と対峙する必要性はない。
「自分はまだデビューもしていないのに仕方ない」などと思ったら負けだ。
漫画家の価値なんてデビュー前から決まっているようなもの。ベテランも新人もへったくれもない。
実力があった者勝ち。
自分を安く見積もった時点で漫画家になる資格なんてない。
相性の合わぬ編集者と接する事は己の才能を潰し、貴重な感性の輝きを濁らせ、惨めで残酷な人生を手繰り寄せているようなもの。
そのような算段で妥協できるのならアシスタント業でもやったほうがよい。
自分の妄想を世に問うなんて徒労だ。
人の指示に従って忠実に仕事を処理するのなら、何も漫画家を目指す必要などないのだ。
アシスタントのほうが収入は安定するしね。
いや漫画の世界に居る必要すらないかも。
むしろサラリーマンを目指したほうが良い人生が待っていよう。

漫画家として成功したいのなら、まず手ごたえのある編集部を捜し歩く事だ。
そこで実力のあるよき理解者たる編集者と出会えたら、それでやっと光が見えてくる。
因みにもし、どこへ行っても編集者に社交辞令的な応対しかされなかったら、それはもう漫画家としての適性がなかったと諦めたほうがよい。
今は同人誌市場というものが確立されている。
何も商売として漫画を描かなくても表現の場は確保されている。
自分を安く売るくらいなら同人誌を描いていた方が、よほど人生豊かになれる。
生活出来るかは別だが。

とにかく、この世界は上手くいけば天国だ。己の妄想で飯が食える。
だからその妄想を安く見積もってはならない。
己の妄想に妥協し理不尽なものを描かされて、その上大した収入もないとなれば、人生全てが荒んでしまう。

己の妄想を100%発揮出来れば自ずと成功が待っている。

要するに己の妄想を信じず、妥協した時点で漫画家失格なのだ。
漫画家は失敗すれば人生の敗北者となる。
中間は存在しない。
上手くいくかだめになるか。その二つに一つ。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/