「愛国義士」は今日も漫画喫茶で逡巡する

報道
11 /11 2010
尖閣漁船衝突ビデオを動画サイトに投稿した人物が名乗り出てきたそうな。
現職の海上保安官で年齢は43歳だそうである。職場の近くの漫画喫茶から投稿したとか。
メディアでは「義憤に駆られて実行した」みたいな論調が目立つが真偽の程は定かでない。
国家公務員には守秘義務というのがあって、この手の映像を動画サイトに投稿したら罪に問われる可能性が高い。
今回のビデオも守秘義務に抵触するのは容易に予想出来よう。
尋常な人物であれば、たとえ現状況が理不尽だったとしても立場を冷静に吟味すれば安易に流出させようとは考えまい。
案外、現場の職員はメディアで騒がれているほど「義憤」は感じていないのではないかと思う。
過酷でドライな職場故、トップの指示には粛々と従う教育も行き届いているだろうし、いちいち理不尽さを訴えていたらこんな仕事成り立たない。
もし仮に「政治的意図」があってビデオを流出させたのならば、もっと組織的に隠匿性の高い方法を選択するだろう。
海外のサーバーを経由するとかしてね。
少なくとも職場近くの漫画喫茶等という足のすぐ付きそうな場所から投稿するはずもなかろう。
あまりにも稚拙だ。

数年前、厚生労働省の元官僚が連続して襲われた事件があった。
その時は年金問題でメディアが騒いでいたので、この不祥事に対する「政治的テロ」みたいな論調が支配的だった。
ところが犯人を捕まえてみる(自首してきた)と、その動機は、かつて自分が飼っていた犬が保健所で処分された敵などと供述。「政治的意図」とは程遠い不可解な思い込みゆえの犯罪だった。
なんだか、今回の流出事件も、いわいる「政治的意思」というより、個人的な職場への不満とか上司に対する鬱積を晴らすだとか、なんだかそんなような動機に思えてならない。
結果的に外交的無為無策に終始する無能政権に打撃を与え、国民の「知る権利」に貢献したカタチにはなったのだが、だからといってこの男性が本当に「ヒーロー」なのかはどうも釈然としない。

もっとも、「ヒーロー」なんて存在は時代が創り上げるのであって、本人の意思とはあまり関係がない。
「一人殺せば犯罪者だが、100万人殺せば英雄」なんて諺があるように、同じ犯罪にも拘わらず時代背景によって如何様にも解釈されるのだ。
だからこの流出男性も、自分の意に関係なしにこれから翻弄されていくのだろう。

この男性の「真意」なるものは知らない。
知る事が出来るのはメディアを通じた間接的情報だけである。
時の支配者にとって、この人物が「有用」と判断されれば「英雄」に祭り上げられようし、逆に「邪魔者」と判断されれば徹底的に貶められるだろう。

かつてのように安易に「ヒーロー」を産む時代は去った。
様々な価値観が交錯する現代では、一元的なものの見方で物事は進まない。
一人の男が未来を築くなんていう事はもう「フィクション」の中にしか存在しないのだ。
庶民は飽きやすいから、この男性の事など数ヶ月もすれば忘れてしまうかも知れぬ。
状況からして時の支配者が、彼を英雄に祭りたてるとはとても思えぬ。むしろ消えて欲しい存在だろう。
だからいずれこの男性の「ヒーロー像」も様々な情報で穢されて尽く崩れ去る。
ギャンブルで借金があったとか、不祥事を重ねていたとか、ヲタクロリコン趣味だったとかね。
無論、それが「真実」である必要はない。
捜査当局が適当にでっち上げて、それをメディアが流布すればいいだけのこと。
本人にも「そういうこと」にしておけば最低限の生活は保障すると裏取引しておけばよいのだ。
で、彼は守秘義務違反で起訴され有罪。
見せしめとして実刑なるかもしれない。
すれば人々は幻滅し、この事件自体も忘却の彼方だ。
そんなシナリオがすでに用意されていそうで怖い。

だが、まあ世の中そんなものである。
これがきっかけで政変が起こるなどという状況はほぼありえない。己の綻びと失態を覆い隠し、責任を他に転嫁することにかけては才能を発揮する政権だからね。選挙も先だし。
更にこの先に何が待っているかは知らない。
彼を犯罪者に仕立て挙げたたところで「現実」を記した40分の動画が全世界に流布された事実はもはや覆い隠せないのだからね。

いずれにしろ、この凋落する日本では情報管理も守秘義務もずさんに崩れ去って、個人が勝手気ままに流出させ放題になっていることだけは解った。
国も組織も、それを押し留める事はもう出来ない。

終わりの始まりが、また一つ露呈しただけの事。
まあ、どうでもいいや。
今日も誰かが漫画喫茶で国家機密を流出せんと逡巡しているのかも。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/