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『戦略空軍命令』という映画

映像鑑賞
01 /30 2019
先日、『戦略空軍命令』という映画のDVDを購入。
1955年公開のアメリカ映画。
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主演はジェームズ・ステュアートとジューン・アリスン。
当時のアメリカ戦略空軍を舞台に、再召集されたパイロット士官とその夫婦を描いた作品。
巨大爆撃機B-36や最初の本格的ジェット爆撃機B-47が余すところなくふんだんに登場し、資料的価値も高い。
航空ファンの間では知る人ぞ知る映画。
昔、東京12チャンネルか何かで放映されたのを観て以来、記憶に刻まれている稀有な映画だ。
実はこの『戦略空軍命令』は久しくDVD化されておらず、全編をじっくり鑑賞する機会がなかったのだが、やっと昨年あたりにパッケージ販売された。
一般洋画のDVDなどめったに買わぬのだが、これは特別だ。ネビル・シュート原作の『渚にて』以来、2枚目だ。
『渚にて』も1950年代作品。
和洋問わず、この時代の映画は今、一番熟成しきって芳醇な香りに満ちている。
未だ理由が解らぬが、この当時の映画は恐ろしく発色がよい。フィルムが特別なのだろうか。とにかく美しい。
当時のカラーと比べると、現在の映画はまるで色褪せたイメージ。
誰もそのことに言及していないようで実に不思議だ。
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それはさておき、『戦略空軍命令』。
改めて全編見終わって、様々な意味で素晴らしい。
(以下、本編内容物語結末描写あり注意)
いうまでもなくB-36とB-47の描写は格別だ。戦略空軍の全面協力の下、機内の細かな描写や優雅なBGMに合わてコントレイルを吐きながら成層圏を行く空撮は琴線に触れまくりだ。
それも全て実機の実写。
CGでは絶対表現出来ない、その時代の空気感まで伝わってくる。
1955年の匂いがするのだ。
米ソ冷戦下、大気圏内核実験華やかなりし時代、その優雅で美しい爆撃機の姿と相反する、第3次世界大戦の危機感こそが1950年代の魅力なのだ。
『戦略空軍命令』はそれを象徴的に描いている。
第2次世界大戦が終わってまだ10年。
主人公は戦争中、B29の搭乗員だったという設定。
復員してプロ野球選手として活躍していたが、人員不足に悩む戦略空軍からスカウトの誘いが。
主人公の上官は諭す。
戦略空軍は世界の平和を維持するために崇高な任務を担っていると。
核報復能力こそが平和を齎すのだと。JAPを焼き殺したように、再び敵をやっつける覚悟に目覚めるのがアメリカ人の義務だと。
主人公はその「崇高な任務」のためにプロ野球スタープレーヤーの座を降りて空軍の再召集に応じていく。
核兵器の運用こそが平和の実践だということを信じて疑わない1950年代の大らかさが絶妙だ。
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また、主人公と新婚まもない妻との関係も感慨深い。
再召集された夫に健気についていく専業主婦の妻。
夫の任務に不安を抱くもそれに耐える「女の強さ」が1950年代にはある。
当時はベビーブーム。妻が妊娠して出産するも、すぐに病院から追い出されるシーンもよろしい。
なぜなら後から後から出産予定の妊婦が入院してくるからだ。
主人公はいう。「戦略空軍では一ヶ月に1500人もの赤ちゃんが生まれるんだ」。
そんな描写も生き生きとした1950年代の活力を感じさせる(ちなみにこの時生まれた赤ちゃんは、2019年現在64歳。いわゆる団塊の世代)。
夫婦の食卓に並ぶ、ティーカップや角砂糖・・これらも1950年代、自分が子供だった頃に慣れ親しんだデザインだ。
当時の邦画でバヤリスオレンジが並んでいるのと同じ郷愁だ。
また基地内の将校宿舎もよい。
在日米軍のキャンプ廃墟には、当時の似たような宿舎が残っている。
まるでタイムカプセル。『戦略空軍命令』は映像まるごと、その「タイムカプセル」なのだ。
特選物のワインなのだ。
また映画の後半、太平洋を超えてB-47を渡洋運行するシーンでは横田や嘉手納も舞台の一部になっている。
ジェットストリームの向かい風で到着予定が遅れるエピソードも興味深い。
当時は日米講和条約からまだ4年しか経っていない。朝鮮戦争も終わったばかり。
日本の空はまだ我が物顔に米軍機が飛んでいた頃。
日本人に対する配慮などまったくなかった雰囲気も清々しい。
ちなみに2019年現在も「横田空域」は存在していて1955年当時と基本的に変わっていない現実も香ばしい。

映画の終盤、結局、主人公は右腕に怪我をして除隊。
野球選手に復帰することも出来なくなる。
しかし、妻の内助の功で、なんとかなるんじゃないかという雰囲気を匂わせて、物語は終了。
この映画のラストで上官はいう。
「戦略空軍は君達のような非常勤や民兵でなんとか維持されているのだ」と。
最後は主人公が育成したB-47部隊が編隊飛行してEND.
エンドロールもなし。
基本的にこの映画は戦略空軍のプロパカンダであるので、オチは身も蓋もないのだが、その単純かつ、ひねりもない描き方がまた清々しく、素晴らしい。

最初、テレビで観たときは爆撃機の描写ばかりに見惚れたが、今観ると1950年代の夫婦愛が、日本の高度成長期のそれと類似して「古き良き日東紅茶」の時代を思い出す。
いずれにしろ『戦略空軍命令』は核兵器万能と専業主婦が絶対だった時代を反芻出来る貴重な作品であることは間違ない。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/