アニメ映画「グスコーブドリの伝記」を観る

映像鑑賞
07 /28 2012
アニメ映画「グスコーブドリの伝記」を観る。
宮沢賢治原作の小説を漫画家ますむらひろしの猫キャラクターで映像化している。
昔、「銀河鉄道の夜」も同様のコンセプトで作られたが、そちらは観る機会に恵まれず今日に至る。

平日、新宿の映画館。あまりお客は入っていなかった。
いわいる流行のアニメではない。
淡々と日本昔話のように描かれているのでジブリ系や美少女萌系、コミック原作等に代表される昨今の「ジャパニメーション」的な作品に見慣れていると見事に裏切られる。
また原作に傾倒している人にとっても物足りないかもしれない。
基本子供向けの教育マンガみたいな出来といえようか。
原作は前に読んでいたはずだが細かいところまで覚えていなかったので「こんな話だったかな?」という印象。
ラストもインパクトがなく、あっさりし過ぎという感が否めない。

だが、問題は作品の出来云々ではない。
己の映画、アニメ等の映像作品に対する接し方だ。
この歳になると10~30代の頃と比べ、感受性が著しく単純化、退化していることに気が付く。
鑑賞作品をアニメーション映画としてどう評価するとか等、薀蓄を並べる事に興味はなくなり、代わって極々単純な主人公の行動を自分に照らし合わせて「こんな事やってる場合じゃない」とガクガクブルブルするのだ。
いつしか「心が痛がり」になって、ちょっとしたネガティブシーンにも耐えられなくなる。
この作品の前半で主人公の妹がヒモジイ思いをして食べ物を待っているシーンがある。
自分が20代の頃だったら多分退屈な場面としてスルーしていたろう。
しかし、今観ると気の毒で仕方ないのだ。
恐らく「父親」目線でキャラクターを観ているのだ。自分は独身で子供も居ないのにも拘わらず己の限られた寿命が「仮想父」として反応しているのだろう。
それから主人公が憧れの博士に出会って才覚を認められ、職場を紹介されるシーンなどは「やはり人脈こそが理想職を得るための必須条件なのだ!羨ましい!人徳も才能もない人間に仕事は回ってこないのだ!」とスクリーンに向かってガックリと頭を垂れたりと、もはやストーリーとは関係ないところでもがき苦しんだりする。
家族の喪失や飢饉、生まれ故郷を捨てて生きる糧を探すために街に出るシーン一つ一つにガクガクブルブルするのだ。
本来、この作品が訴えようとしているテーマとは全然違う部分で自分と主人公を比較分析し、如何に自分はダメ人間なのかを再確認するために映画を観ている。
それに気が付いた時、自分は完全に歳を取ったのだと改めて悟るのだ。
そして同時に己は父親にもなれない出来損ないの大人として恥ずかしい人生を歩んでいるのだと認識し、すぐにでも穴に飛び込みたい衝動に駆られてしまう。
特に宮沢賢治が描く「自己犠牲」、「大人としての義務」、「家庭愛」、「社会に対する献身」などから尽く逃げてきた自分にとってこの映画の原作は心に痛い。
ひたすら主人公に向かって「あいすみません」と土下座するしかないのだ。

本編終了後、スタッフロールの中に学生時代に同人サークル仲間だった者の名を見つける。
もう長い間、アニメーターとしてこの世界に在籍しているから役職的にもかなり重要なポストに納まっている事だろう。
風の噂ではとっくの昔に結婚し、娘さんも成人を迎えている頃だ。
下手をすると孫さえ居たっておかしくない。
それを認識すると益々己の矮小さが身に沁みて懺悔に懺悔を重ねるしかなくなる。

だが、この映画はそのような独身絶望男性、人生の敗北者のために作られては居ない。
親子揃って映画館に出かけ、親が子供に言い聞かせるための作品なのだ。
「おまえもこのような立派な男になれ」と。
己のような甲斐性なしの独身人間にこの映画を観る資格は毛頭ない。

年々、宮沢賢治の作品を読むのが辛くなってくる。
なぜなら「人生の王道」「大人への通過儀礼」がそこに記されているからだ。
人はそれを避けて大人になることは出来ない。
だが自分はその全てを避けてきた。
次世代を育む事に目を背けてきた独身男女はやがて己の絶望を知る。
それは「グスコーブドリの伝記」で描かれているイーハトーブを襲った異常気象や飢饉と同意語であり、子を設けず歳を取った絶望独身者の末路は悲惨だという事を示す。
天災を生き抜く事も出来ずに哀れに死んでいった「その他大勢」でしかない人生。
惨めの極み。

恐ろしい。

あびゅうきょ

漫画家あびゅうきょ
職業/漫画家
ペンネーム/あびゅうきょ
生年月日/19××年12月25日
血液型/O
星座/やぎ座
出身地/東京都
帝京大学法学部卒
徳間書店刊「リュウ」1982年5月号『火山観測所』でデビュー
著書/
大和書房刊『彼女たちのカンプクルッペ』(1987)
講談社刊『快晴旅団』(1989)
日本出版社刊『ジェットストリームミッション』(1995)
幻冬舎刊『晴れた日に絶望が見える』(2003)
幻冬舎刊『あなたの遺産』(2004)
幻冬舎刊『絶望期の終り』(2005)

公式ホームページ
http://www.ne.jp/asahi/abyu/abe/